「熱心な鉄道ファンは、鉄道会社に就職しようとしても敬遠されるという“都市伝説”がありますが?」──そう聞くと、相模鉄道に勤める石井昌章さん(59)は「うちの会社には、けっこういますよ」と笑った。石井さんは、休日になると鉄道に乗ったり、鉄道の写真を撮ったりするために全国に足を運ぶ生粋の鉄道ファンだ。現在は、湘南台駅、ゆめが丘駅、いずみ中央駅の3駅の駅長をしている石井さん。鉄道との出会いは、幼少期のことだったという。
「実家の近くに電車が走っていて、小さい頃から鉄道に慣れ親しむ環境だったんです。一番記憶に残っているのが、小学校の頃に弟と一緒に電車に乗った時のこと。終点で折り返し運転する列車の運転士さんが、私たちを運転席に入れてくれたんです。それからですね、鉄道好きになったのは」(石井さん。以下同)
今なら、子供を運転席に入れたら問題だが、当時はおおらかな「昭和」の時代。石井さんは中学に入ると、親のカメラを借りてブルートレインやSLの写真を撮るようになる。自然と運転士に憧れた。「地元・横浜の会社で、『将来、乗務員への登用あり』と入社案内に書かれていたから」ということで、相模鉄道に入社する。そして駅員、車掌、憧れの運転士などを経て、本社でイベントやグッズを担当する部署にも配属された。石井さんの鉄道趣味は、その仕事にも活かされた。
「弊社の車両は赤系の塗装のものが比較的多かったんですが、塗装変更で赤いのがなくなる時に、『型式の違う車両を並べて撮影会をやろうよ』と提案したんです。
何よりも自分が撮りたかったんですが(笑)、『私が撮りたいものは、他の鉄道ファンもみんな撮りたいだろう』と思ったんです。2014年のことです。イベントのために、その日に1か所に赤い車両が集まるように車内調整し、信号機が邪魔にならないように車両の停止位置も細かく指定しました。1分の1スケールの鉄道で、遊ばせてもらいました」