映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、劇団四季を退団してしばらくは舞台から離れていた鹿賀丈史が、再び劇場に立ち、『レ・ミゼラブル』や新作『ラ・カージュ・オ・フォール』などを演じるなかで気づいたこと、心がけていることについて話した言葉を紹介する。
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鹿賀丈史は劇団四季を退団後は舞台から離れていたが、1986年の『トーチソング・トリロジー』で復帰を果たしている。
「劇団を辞めて七年目、久しぶりの舞台で、しかもセリフの長い芝居でしたので不安はありました。でも、これで舞台の楽しさを思い出しました。それはやはりライブ感覚。ライブですから、同じようなことをやっているようで毎日微妙に違うんですよね。演じ方も、お客さんの反応も。何より僕の舞台を待ってくれているお客さんたちがいた。それが嬉しかったです」
翌年に始まった『レ・ミゼラブル』では当初、主人公のジャン・バルジャンとそれを追うジャベールの二役を、それぞれ滝田栄と交代で演じている。
「ジャン・バルジャンが人生をやり直していこうという歌とジャベールがセーヌに飛び込んで死んでいく歌とが同じメロディなんです。つまり、善良で温厚なジャン・バルジャンに対して非情なジャベールという見方をされますが、実は表裏一体という描き方で。そこが素晴らしい。
ジャベールは執拗に追いかける強さの持ち主です。ところが、最後はバルジャンの慈悲にあい、自分のやってきたことはなんだったんだろうと思い身を投げる。よく考えると根本的には弱い人間なんです。ですからただ強いだけでなく、その弱さや繊細さも出せるように工夫をしました。
昨日僕がバルジャンで滝田さんがジャベールだったら、今日はそれが逆というようなこともありましたので滝田さんの芝居を意識することはありました。が、それは対抗意識というのではなく、二人で作っていこうという意識でした。僕は僕のやり方、滝田さんは滝田さんのやり方でいこうということで」
新作の『ラ・カージュ・オ・フォール』もそうだが、鹿賀のミュージカルはロングランや何度も再演されることが多い。