【著者に訊け】中山七里氏/『護られなかった者たちへ』/NHK出版/1600円+税
舞台は仙台。市の福祉保健事務所職員と現役県議が、全身を縛られたまま放置され、餓死させられるという驚愕の連続殺人事件を軸に、中山七里著『護られなかった者たちへ』は展開する。
物語は宮城県警捜査一課刑事〈笘篠〉の目線で進み、今一人、話者を務めるのが元模範囚〈利根勝久〉だ。7年前、彼は知人の生活保護申請を巡って塩釜の福祉職員らと口論になり、相手を殴った上に、庁舎に火を放つ。幸いボヤで済んだが、懲役10年の実刑判決を受け、7年で刑期を終えていた。
最初の犠牲者〈三雲忠勝〉が消息を絶ったのは利根の出所後。笘篠は第二の犠牲者〈城之内猛留〉と三雲の接点から利根に辿り着くが、塩釜署では捜査資料が津波で既に散逸、公判でも利根の動機は曖昧にされていた。と、ここまで粗筋を詳しく紹介できるのも、本書が単に犯人探しを目的としたミステリーではないからだ。どんでん返しの名手は言う。
「事件の犯人はわかっても、物語の犯人は読み終えた後も誰にもわからない、現時点での最高傑作です!」と。
少年時代から膨大な読書量を誇り、既に著書35作を数える中山氏はまさに異能の人。本作でも同じ仙台内、あるいは県内でも、震災後の〈ヒト・モノ・カネ〉の集まり方に格差が生じている現実を、氏は現場に行くことなく「想像で」、見抜いてしまうのだ。