これまで幾度となく映画やテレビでシリーズ化され、何人もの名俳優たちが演じてきた眠狂四郎。このほど、ドラマスペシャル『眠狂四郎 TheFinal』(フジテレビ系)で半世紀ぶりにこの役を演じるのは田村正和(74才)だ。これだけ長い年月を経ても、田村が同じ役を演じられるのはなぜか。“田村版眠狂四郎”について時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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今年は時代劇に関してあっと驚くニュースが多いが、2月17日土曜日に放送される田村正和主演『眠狂四郎 TheFinal』もそのひとつだ。なんたって、田村正和がこの役で初めて主演したのは、1972年。札幌で冬季オリンピックが開催され、上野動物園に初来日したパンダが大人気となった年…というと、なんだか今年と共通点があるような気もするが、とにかく半世紀近くも前なのである。ひとりの俳優がこれほど長く当たり役を演じ続けるというのは、日本のテレビ界ではほとんど例がない。
この役は、映画では松方弘樹、鶴田浩二、市川雷蔵と昭和の名優が演じ、ドラマでも江見俊太郎、平幹二朗、片岡孝夫(現在の仁左衛門)、GACKTが演じているので、ご存知の方も多いと思うが、とにかくこの「眠狂四郎」という男は、異色の時代劇ヒーローである。
そのポイントはふたつ。ひとつは、転びバテレンのオランダ人宣教師と大目付の娘との間に生まれたという出生の秘密を抱え、虚無の中に生きる孤高の剣士であること。目立たないように生きているのに、赤味がかった髪と憂いを帯びたその美貌はやたら人目を惹く。
狂四郎がイケメン好きの女子に誘惑されたり、抱きつかれたりするのは日常茶飯事。1970年代の夜のドラマには、セクシー女優も多く出ていたので、お子様だったペリーも当時のお色気シーンをドキドキしつつ見ていたものだ。
そんな積極的な女たちに対して、狂四郎の態度は「Sですか!?」と言いたいほど、いたってクール。「地獄へ墜ちてもかまわんと?」なんてことを平気で言うのだが、それが田村正和にぴったりくるのだった。
もうひとつのポイントは、狂四郎が独自の必殺剣「円月殺法」を使うこと。狂四郎が下段の構えから妖刀無想正宗をくるりと一周させながら相手を幻惑、見た者は必ず死ぬ。光る刀がキラキラと軌跡を描く円月殺法は、眠狂四郎ならではの幻想的なシーンである。