養老:そういう若者を手玉にとって凶行に及んだ事件が最近ありましたね(*2)。
【*2 2017年10月、神奈川県座間市のアパートで、15~26歳の男女の遺体が見つかる。容疑者は、ツイッターで「首吊り士」と名乗り、自殺願望者を募っていた】
宮下:はい。それも死が日常生活からどんどん遠くなっていることと関係している気がします。死に対してリアリティーが持てないからこそ、安楽死という発想が生まれる余地もあるのかなと考えています。
養老:面白い話があって、昔、胃潰瘍は、戦争になると消えるって教えられていたんだ。今は、胃潰瘍はピロリ菌が原因とされているから、本当はどうか分からないけど。でも、社会全体に特定の緊張状態が生じると、一部は消えるというのは、そうだと思います。
宮下:安楽死も、豊かになったからこそ生まれた選択肢だと思うんです。アメリカで安楽死反対派の医師から、安楽死を希望する患者には4つの「W」が当てはまるという話を聞きました。「White」は白人、「Well-educated」は高学歴、「Worried」は心配性、そして「Wealthy」は裕福です。
この先生に言われました。「考えてみろ、なぜ先進国では安楽死が求められて、発展途上国ではそうではないのか」と。その背景を自分なりに考えてみて、たとえば途上国に心配性の人が少ないのは、地域や家族との繋がりが密接だからなんじゃないかと。
養老:皆貧乏だと、逆に温かい社会が出来上がります。