【書評】『日本史のツボ』/本郷和人・著/文春新書/840円+税
【評者】山内昌之(明治大学特任教授)
ツボを押えれば歴史が分かるというわけでもなかろう。それでも、7つのツボを親切に教えてくれる本書を読むと、日本史の流れを理解できた気分になる。それは本書が天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済というツボに沿って、独自の日本通史を試みているからだ。
たとえば、天皇は室町時代まで公家や武士や寺社などの「権門」の上に君臨したという見解にも、承久の乱以降北条氏が天皇を誰にすべきかという最高の人事権を握った以上、朝廷が果たして幕府より上位の権力機構だったのかと明快に反論する。
それでは、足利尊氏の執事高師直(こうのもろなお)が“木や金の像でもよい、天皇にはいてもらわないと困る”と傲慢にも述べたのは何故だろうか。それは、土地の権利をめぐる論理として「職の体系」が必要であり、官職叙任権をもつ天皇家を滅ぼすと土地の権利が大混乱を来し武家政権の信用も丸つぶれになるからだと、これも明快そのものなのだ。
軍事を考えること自体が悪だと考える人は学界にも多い。しかし、島津の必殺戦法の「釣り野伏せ」は本当に可能だったのだろうか。とにかく敵兵力が勝っている状況下でわざと退却し、相手が追撃してくると伏兵が包囲し殲滅するといった難易度の高い兵法が果たして成立するのか。ここは戦略戦術の専門家の防衛大学校とも共同研究ができないものか、と並の東大教授が考えつかないアイディアも披瀝する。結局、兵站を知らないと軍事も歴史も理解できない。