東京・湯島にあるオフィスビルのワンフロア。忙しそうにパソコンに向かう8人の男女。一見すると、普通の職場に見える。しかし、ある社員は椅子の代わりにバランスボールに腰かけ、またある社員は赤い紐をたすきのようにかけて、あくせく手を動かしている。
ここは、健康雑誌『壮快』の編集部。1974年の創刊以来、40年以上も続く日本一の老舗健康雑誌が作られている“現場”だ。
この日は2月16日に発売された4月号のメイン特集「タマネギで糖尿病を撃退」を作成中のようだ。
デスクの上には「汚れた血液がサラサラに! タマネギは食べる薬だ」「タマネギの常食で重症糖尿病を克服」などと書かれた原稿が山積みとなっている。
昼休みになると、ある女性社員は納豆を冷蔵庫から取り出し、おもむろにお酢をかけて食べ始めた。冷蔵庫の中には、ほかにもこうじ水やりんご酢、酢玉ねぎなどの同誌で紹介された健康食品がズラリ。
創刊から現在に至るまで、『壮快』は「紅茶キノコ」「朝バナナダイエット」「食べる甘酒」など、健康に関する、さまざまなブームを巻き起こしてきた。常に最新の健康術を読者に届けることができる秘訣は一体どこにあるのか。また『壮快』を作る編集部員たちは本当に健康なのか。そして一体どんな生活を送っているのか。
次々と浮かぶ謎を解き明かすため、『壮快』編集部に潜入した。
テレビをつければ、『ガッテン!』(NHK)や『名医とつながる!たけしの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)など、健康番組のオンパレード。書店や新聞広告には「健康になりたけりゃ○○しなさい」といったタイトルが並ぶ。現代は空前の「健康ブーム」である。
『健康ブームを問う』(岩波新書)の著者である飯島裕一さんが解説する。
「平均寿命が伸び、高齢社会の中で『健康になること、健康でいること』が生きる目的になっているような傾向がみられます。そういった志向を助長するように健康情報があふれ、地道に健康作りをするのではなく、健康に関する商品をお金で買おうとする人が増えている」
実際、健康に関する市場は年々拡大している。日本健康・栄養食品協会が行った特定保健用食品に関する調査によれば、2016年の市場規模は6463億円。1997年の1315億円と比べて5倍近く伸びた。
しかし、『壮快』編集長の安藤伸剛さん(47才)は、現在の「健康ブーム」に苦言を呈する。