臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、平昌五輪で完全に主役の座をさらった、北朝鮮の金与正氏に注目。
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“目は口ほどに物を言う”ということわざが、これほど当てはまる表情もそうないだろう。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働長委員長の妹で特使として平昌五輪にやってきた金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長が、南北首脳級会談で文在寅(ムン・ジェイン)大統領に見せた表情は、相手を見下したように冷ややかだった。
五輪の開会式では主役をかっさらったとまで言われ、これまで金正恩委員長の色しかなかった北朝鮮のイメージを、その“ほほえみ”でガラリと変えてみせた与正氏。だが何よりうまかったのは、彼女の人心掌握術ではなかっただろうか。
開会式のスタンドで、後の段にいた与正氏に振り向いて手を指し出した文大統領。開催国の大統領として挨拶したと言えばそれまでだが、後の段とはいえ、与正氏の席は文大統領の一段上。与正氏が見下ろす形での握手となったが、彼女が文大統領に頭を下げることはなかった。
その後も挨拶したり、握手する機会があった二人だが、映像を見る限り、与正氏が頭を下げる姿は一度も見られなかった。
韓国側に譲歩したような印象を残さないよう警戒した、というメディアもあるが、「自分はこれまで訪韓してきた北朝鮮の人間とは、立場が違うのだ」と示していたとも言えるだろう。彼女は訪韓時、視線を上に向けてまっすぐに前を見つめ、常に顎を上げていたからだ。顎を突き出すように上げる仕草は、権力や優越感、攻撃性を表していると言われる。
南北首脳級会談では文大統領に手を指し出され、その手を軽く握り、一瞬、笑顔を見せた。ところが席に着くなり、与正氏の表情は一変し、顎が上がる。金委員長からの親書を手に、見下すような視線で目付きも鋭く冷やか、表情も冷淡。座り方も上半身を背もたれにあずけ、テーブルから身体が離れている。両手はテーブルの下だ。実に落ち着き払って冷静なのだ。
ところが文大統領の仕草は、与正氏とは正反対。いく分、上気したような顔をほころばせて椅子に座ると、前のめりに身を乗り出した。テーブルに両手を上げると、一瞬、その手をこすりあわせ、揉んだようにも見えるではないか。
文大統領の高揚感はハンパないということが、この仕草からわかるだろう。手をこすりあわせたり、揉んだりするのは待ち遠しさや期待感があるからだ。テンションMAXの彼には、与正氏がどんな表情や態度を見せようと目にも入らず、気にもならなかったのではないだろうか。いやもしかすると、潜在的に自分よりも金ファミリーのほうが格上と見ていた可能性もあるかも?とさえ思ってしまうほど、文大統領は彼女の態度を気にしていないのだ。