「なるほど家電」という大きなロゴが掲げられた壁一面にLED照明が展示され、売り場全体を明るく照らしている。エアコン、炊飯器、掃除機、トースター、布団乾燥機などの家電が所狭しと並んでいる。ここは関東圏を中心に14店舗を展開する千葉県にあるホームセンター・ユニディ千鳥町店の家電売り場だ。
エアコンの前ではベビーカーを押す30代の夫婦が商品を見比べていた。「次はやっぱりこれだね」と夫の顔を見上げる女性に話を聞いた。
「ユニディの家電売り場って、『アイリスオーヤマ』製品を数多く揃えているんです。今わが家が狙っているのは、エアコン。価格は8万円ぐらいで手頃だし、Wi-Fi機能が搭載されていてスマホで全ての操作ができるんです。大手メーカーだと、同じような機能を付けたら30万円程度だからかなりお得」
彼女が絶賛する『アイリスオーヤマ』とは、苦戦を続ける日本の家電業界にありながら右肩上がりの成長を遂げている企業だ。雑誌『経済界』の関慎夫編集局長が言う。
「宮城県仙台市に本社を置く『アイリスオーヤマ』は、もともとは衣装ケースや園芸のプランター、ペット用品など、ホームセンターでよく見かける生活用品の製造卸業でした。2009年にLED照明の製造販売を始めて以降、家電業界にも進出。消費者である主婦層の“あったらいいな”という思いを形にした『なるほど家電』で大躍進を遂げ、わずか8年で同社の総売り上げのほぼ半分の653億円(2017年度)を占めるまでになりました」
進撃を続けるアイリスオーヤマ。今ではパナソニック、ソニー、シャープなど、いわゆるナショナル家電メーカーも一目置く存在となっている。
同社をここまで引き上げた最大の功労者は53年もの長い間、社長として同社を牽引する大山健太郎氏(72才)だ。だが、1月11日、突如、同社はその大黒柱の6月末での退任を発表した。
「今年、アイリスオーヤマは創業60周年。これを機に若返りを図るという方針のようです」(関編集局長)
父・大山森佑氏が大阪で創業した従業員5人のプラスチック工場(大山ブロー工業所)を大山社長が継いだのは、東京五輪の開催に沸く1964年のこと。当時、大山社長は弱冠22才だった。アイリスオーヤマ広報の松下沙樹さんが言う。