かつて世界を席巻した日本の家電ブランド。だが、今やグローバル競争に敗れて衰退の一途を辿っている。そんな中、ひとり気を吐くのが『アイリスオーヤマ』だ。もともとは生活用品製造卸を主としていた企業が大手家電メーカーを脅かすまでに成長を遂げた。
アイリスオーヤマ家電を使った快適でおしゃれな日常をSNSにアップする主婦・敏森裕子さんがこう話す。
「両面ホットプレートがお気に入りです。以前は大手メーカー製品を使っていたんですけど、大きくて収納場所に困っていました。でもアイリス製は2つに折りたたんで収納できる。
また、片面ずつ温度調整ができるので、片方で焼いて、もう一方で保温するといった使い方ができる。最近、片方でチーズフォンデュ、もう一方でオムライスを作って子供たちを喜ばせました(笑い)」
同社の大山健太郎社長があるインタビューで「アイリスにはファンがたくさんいるんですよ。奥様方を中心に」と語っているように、アイリス製品は生活用品から家電まで主婦層から絶大なる支持を集めている。
小型家電や白物家電の最大のお客である主婦層の心を掴む“主婦ファースト”の精神はどのように生まれているのだろうか。アイリス流のヒットの法則を紹介していく。
◆引き算の法則
「メーカーが“作りたいモノ”と消費者が“欲しいモノ”の乖離が、昨今の大手メーカーの衰退の原因。例えば携帯電話は機能を加えすぎて複雑になりすぎてしまった。でもアイリスは消費者目線で不必要な機能を削ぎ落とします」(雑誌『経済界』の関慎夫編集局長)
また価格決定のプロセスにも引き算の法則はある。
「大手メーカーの価格設定は足し算です。製造原価に管理費などをプラスし、そこに利益を乗せる。一方、最初に『値ごろ価格』を設定し、そこから引き算するのがアイリス流。ドライヤーの価格を7000円と決めたらそこから利益、管理費などを引いて製造原価を割り出します」(アイリスオーヤマ広報の松下沙樹さん)
◆即断即決
アイリスの強みの1つがスピードだ。家電評論家の戸井田園子さんの解説。
「アイリスは開発から発売までを3か月から半年ほどでやってのけます。秘密は毎週月曜日に行われる新商品開発に向けたプレゼン大会にあります。全社から各担当者が集まって丸1日かけて大山社長以下10人ほどの幹部に向けてプレゼンする。そして、その場で大山社長が商品化のジャッジを決めるため、一気に開発が進んでいくのです。
しかも、一度OKが出た商品に関しては、いくら失敗してもお咎めはありません。全責任を社長が負いますから、社員は積極的に商品開発に力を注ぐことができます」
◆技術の受け皿に
最近ではWi-Fi機能搭載のエアコンなど、高い技術が必要な製品を市場に投入しているアイリスオーヤマの開発現場には“技術の受け皿”としての側面もある。