映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優としての活躍する舞踊家の田中泯が、「おどり」について話した言葉を紹介する。
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近年は「役者」としての活躍も目覚ましい田中泯だが、長年にわたって追い求めてきたのは肉体を使っての芸術表現「おどり」。つまり、彼は「舞踊家」だ。
「未熟児に近い状態で生まれて子供の頃から中学の終わりくらいまで背が低かったんです。ちっちゃくて、弱かった。心配した母親に強引にバスケットボールをやらされたら好きになって。大学でもやったのですが、上には上がいました。能力の差を見せつけられて、身体能力じゃない世界に行きたいと思って『芸術をやりたい』と。
子供の頃から、気づいたら踊っていたことは確かです。お祭のお神楽だったり、盆踊りだったり。夢中になっていました。中学に入る頃にテレビでロシアのモイセーエフ舞踊団を見た時の衝撃は今も忘れずに頭に残っています。高校の時にはシュールレアリズムにも触れました。
そういうこともあったので、いつか何か芸術的表現をするだろうという予感はしていたんです。それで、スポーツから芸術へと一気に変わることになりました。最初は町の舞踊研究所でバレエのレッスン。それにジャズダンスもやりました。
いずれも体幹の軸を意識するレッスンでしたが、それは今の僕の考えとは違います。西洋から入ってきたものは、簡単に言うと自己中心的。体幹を体の中心に据えます。でも、そこを中心に感じるのは本当は一瞬のことだと思うんです。人間の身体は絶対に止まりませんから。必ず動いているから、ぶれる。『一瞬だけ止まったかのように思える』のが真実だと思います」
そして大学を辞め、アーティストとしての道を歩み始める。