高齢になると、体の機能が低下するが、特にアルツハイマー型認知症の場合は初期から嗅覚の異常が見られ、認知症の重度化とともに嗅覚も低下するという。(平成23年度厚生労働省「認知症高齢者の食行動関連障害支援ガイドライン 作成および検証に関する調査研究報告書」より)
つまり、においに対して鈍感になったら、認知症の注意信号ともいえる。今、よい香りで嗅覚を刺激し、認知症や介護予防、改善にも役立てようというアロマセラピーが注目されている。在宅や施設、病院などでメディカルアロマセラピーを行う、所澤いづみさんに聞いた。
「アロマセラピーというと、日本では美容やおしゃれ雑貨のイメージが強いかもしれませんが、よい香りは人の不安を和らげ、痛みや苦しみを緩和するなどの効果が、多くの医療研究者によって明らかになっています」という所澤さん。
所澤さん自身も芳香浴やトリートメント(マッサージ)などを多くの高齢者や終末期患者に施し、その効力を実感しているという。
「よい香り、好きな香りは全般的に心をリラックスさせます。病気のある人や高齢者は痛みや不安で常に緊張状態にあります。この緊張を香りの力で解きほぐし、症状を緩和するのです。
最近では、星薬科大学塩田研究室(同大学先端生命科学研究所 塩田清二特任教授 日本アロマセラピー学会理事)が、レモングラスの香りの認知症改善・予防効果を検証し、話題になっています」
多様な香りと脳の活性化について研究した結果、レモングラスが記憶を司る前頭葉を活性化することが判明したという。喜ばしいニュースだが、他にも、うつや更年期障害、睡眠障害、生活習慣病などの治療としても期待されているという。
「香りは、気分だけでなく全身に作用します。香りをかぐと、鼻から大脳辺縁系を経て、記憶学習を司る視床下部、自律神経、免疫系、内分泌系を司る視床下部(下垂体)にダイレクトに働きます。
また、吸い込んだ香りは肺へ、マッサージなどで皮膚に塗布したオイルの香り成分は皮膚から、いずれも血液にのって全身の臓器を巡ります。よい香りをかぐと、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンやエンドルフィンが分泌され、心が落ち着いて快感を覚え、沈んだ気分が高揚したり痛みを和らげたりします。また不快な腐敗臭をかぐと吐きそうになって拒絶するように働きます。香りは精神にも肉体にも作用するのです」