光沢を放つ漆色の車体。先端には菊の御紋が金色に輝き、日章旗が翻る──天皇、皇后、皇太后のために特別に運行される列車を「お召し列車」といい、なかでも天皇のために特別に造られた車両を「御料車」と呼ぶ。『御召列車』の著書がある鉄道史研究家の白川淳氏が解説する。
「御料車には、天皇皇后両陛下と皇族、国賓以外乗ることはできません。昭和初期から運行していた一代前の『一号御料車』は老朽化したため、2007年にE655系に替わりました。翌年11月、両陛下がスペイン国王夫妻と茨城県つくば市をご訪問される際に、初めて運行されています」
E655系に限らず、天皇が利用する列車はすべてお召し列車と呼ばれる。
「お召し列車は、春の植樹祭や秋の国体へのご出席、ご視察といった公式のご予定で運行される場合と、ご静養や私的旅行のために非公式に運行される場合があります。公式に運行される際は、原則として列車に菊の御紋が据えられ、日章旗が掲げられます」(白川氏)
日本初の鉄道が開業したのは、1872年10月。その3か月前、仮運転していた列車に明治天皇が乗車したのが、お召し列車の始まりとされている。
1925年にはJR山手線の原宿駅に「宮廷ホーム」と呼ばれる皇室専用の駅舎が設けられ、昭和天皇の時代によく利用された。150年近くにわたって運行されてきたお召し列車だが、その実体はベールに包まれている。