音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、ふつうは避けられる、季節や題材が似た大ネタを二席、上演した立川談春の独演会について振り返る。
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立川談春は毎年暮れに大阪のフェスティバルホールの独演会で『芝浜』を演るが、昨年はそれに加えて『文七元結』もネタ出し。こういう暮れの大ネタを2つ並べるというのは通常あり得ない。だが1982年12月、立川談志が「30周年ひとり会」で『富久』『芝浜』の2席を立て続けに演じた例もある。僕はそれで衝撃を受けて一気に談志ファンとなった。それを思い出しながら、僕は12月28日、大阪に向かった。
1席目『文七元結』は佐野槌の場面から始まり、女将の名台詞を聞かせた後すぐに吾妻橋へ。ここでの文七と長兵衛のやり取りの面白さは空前絶後! 文七の子供っぽい強情さがなんとも可笑しく、対する長兵衛もフラ満開で可愛げがある。この2人の掛け合いが自然と笑いを生み、湿っぽくならない。
翌朝、近江屋に身請けされたお久と共に佐野槌の女将も長屋を訪れて長兵衛に言葉を掛けるというオリジナル演出は、この女将の存在感が強い談春版『文七』においては説得力がある良いアイディア。お久に一目惚れした文七が、長兵衛に「俺を唸らせるだけのものを持ってきたら許してやる」と言われて発奮、元結に工夫を施して認められ、お久と夫婦になる……というのも「それなら納得」のハッピーエンドだ。
2席目が『芝浜』。冒頭、起こされた勝五郎が家を出て「町内の犬にまで忘れられちまった」と呟くところまで描いた後、すぐに場面転換して「おっかあ、開けてくれ!」と帰宅し、財布を拾った経緯を女房に語る。芝浜の場面を描かないこの演出は8年前から取り入れている。