アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと五輪4連覇し国民栄誉賞を受賞した伊調馨が、レスリング協会の栄和人強化本部長からパワハラを受け続けてきた、と告白したことが注目を集めている(栄氏とレスリング協会はパワハラを否定している)。『週刊文春』3月8日号の記事をきっかけに、テレビのワイドショーやスポーツ紙などによる後追い報道が続き、改めて調査される見通しだ。一連の報道をみて「やっぱり、つらかったんですね」と漏らしたのは、元五輪担当スポーツ紙記者。
「栄さんは記者による囲み取材のときでも、伊調馨さんがあまりにマイペース過ぎるとよく話していました。初めて聞かされたときは、こんなことまで開けっぴろげに喋っちゃうんだと驚かされたものです。合宿でも、伊調さんへのあてこすりだとわかることを繰り返し、他の選手もいる前で言い続けていたと聞きました。かつては良好な師弟関係だったと思うのですが……」
そもそも、二人はもともと、そりが合わないタイプの組み合わせだった、とレスリング関係者は言う。
「栄さんはすぐに手も口も出してしまうタイプ。しかも、説明もあまりうまくない。練習の最初と最後に全体に向けて話をするんですが、正直、何を言っているのか分からないことが多い。一方の伊調さんは、きちんと筋道をたてて物事を考えて話をしたい人。そして、一人で黙って考え込むことが多く、普段から言葉数も少ない。レスリングの話をするにしても、わかる言葉で理屈の説明をしてほしい伊調さんと、熱意と感情が先に出てくる栄さんでは、合わない部分のほうが多かったんじゃないですか」
それでも、2008年の北京五輪で2連覇を果たした瞬間までは、危ういながらも信頼関係はあったのではないかと前出の記者はいう。金メダリストとなった翌日の一夜明け会見をきっかけに、二人の間の溝が深まり始めたのではないかと振り返る。
「姉の千春さんと姉妹で金メダルを目指したけれど、千春さんは銀。その千春さんにはげまされて金をとった馨さんと姉妹そろっての一夜明け会見で、二人が『引退』と言ってしまったんです。これを聞いて関係者、とくに栄さんはすごく慌てていました。誰にも相談せずに、いきなり会見で言ってしまった。10月に日本で女子世界選手権が開催予定でしたが、二人とも試合でケガをしていたので出場しないことは内心、織り込み済みだったようです。ただ、中継ホスト局である日テレとの関係もあるから、五輪がおわってすぐに出ないとはっきりわかる発言はしてほしくなかった。その後も、栄さんへの相談をせずに色々と決めることが続いて、師弟関係が壊れていったのかなと思います」
北京五輪からの帰国後に二人とも引退を撤回し、約1年、姉妹でカナダに留学した。2009年12月の全日本選手権から復帰して、翌2010年4月からは拠点を東京に移した。その頃から現在にわたり、栄氏から伊調馨へのパワハラが続いていると言われている。