脳梗塞の原因は年齢によって違う。働き盛りの比較的若い世代での発症は肥満を伴う高血圧や糖尿病、高脂血症など生活習慣病が原因の場合が多い。対して近年増加している高齢者の場合では心房細動という不整脈により、心臓でできた血栓が脳に飛ぶ心原性脳塞栓症が圧倒的だ。しかも心房細動による脳梗塞は血栓が大きく、より太い血管に詰まるため、脳細胞に重大なダメージを与える。
心房細動はなかなか発見しにくく、高齢者の中には一日中不整脈が起こっているのに気づかず、脳梗塞になって初めて不整脈を指摘された人も多い。
日本医科大学多摩永山病院脳神経内科の長尾毅彦部長に話を聞いた。
「脳梗塞は“ある日突然”発症したと思われがちですが、その伏線は何年も前から始まっています。例えば20代より体重が10キロ以上も増えた中高年の方の場合、高血圧や動脈硬化が進行していたり、あるいは不整脈が起こっていることもあります。中にはお酒を飲んでいるとき、心房細動による動悸や脈の乱れを感じたのに検査せず放置していて、ついに脳梗塞を発症……というケースもあります」
脳梗塞の初期症状として、専門医が指摘しているのが「FAST」だ。Fはフェイス(顔)、Aはアーム(手)、Sはスピーチ(言語)、そして、Tはタイム(発生した時間)の頭文字で、左右どちらかの顔か手に麻痺、または言語の障害が突然起こったら、すぐに救急車を呼んだほうがよい。
脳梗塞の治療は発症してからの時間が回復に大きくかかわる。倒れてから、4時間30分以内ならt-PA(血栓溶解療法)が有効だが、実際にt-PA治療が受けられるのは救急搬送患者の約10%程度だ。搬送までの時間が短く、かつ脳細胞のダメージ範囲がそれほど広くないなど、条件が重ならないと実施しても効果を得られにくい。
t-PA後も太い血管に血栓が残っている場合、発症から8時間以内であれば血管内治療を実施することもある。大腿部からカテーテルを血栓近くまで挿入し、血栓を取り除く。ステントを使い、血栓をからめとって取り除く方法と血栓を吸引する2通りの方法がある。