【著者に訊け】佐藤卓氏/『大量生産品のデザイン論 経済と文化を分けない思考』/PHP新書 860円+税
コンビニやスーパーに置かれる身近な日用品。グラフィックデザイナーの佐藤卓氏は、ふだんなにげなく使っている大量生産品のデザインにこそ、そのスキルを投入してきた。「ロッテ キシリトールガム」。「明治おいしい牛乳」。「エスビー食品 SPICE&HERB」。いずれもロングセラーで、店舗の棚で強く自己主張するわけではないのに、ふと手に取ってみたくなるものばかりだ。ただ、そう言われなければ同じデザイナーが手がけた商品だとは気づかないかもしれない。
〈自分がつくったデザインが、私の作品であるという認識は、まったくありません。クライアントであるメーカー、その彼らがどんなものを求めているのか、その想いを形にしているのであって、自分が勝手に生み出したものではないからです〉
佐藤氏のような著名なデザイナーが〈無名性〉を尊ぶとはどういうことなのか。デザイン家電やデザイナーズマンション。デザインを付加価値とみなして強調する、最近はやりの言葉の使われ方に、佐藤氏は〈とても憤りを感じています〉と書く。
「だって、デザインされていない家電やマンションなんてないんですから。デザインがオシャレでカッコイイものだという認識が一般にあるからなんでしょうが、それは間違いだと私は思っています」
表面的なものではなく、本質そのものととらえるデザイン観は、本のこんな一節に表れる。