2011年東日本大震災の甚大な津波被害に見舞われながらも、子供の犠牲者が少なかった岩手県の三陸沿岸地域。
子供を守ったのは、地域全体で連携し行ってきた防災教育だ。自分が住む街の「弱点」を正しく認識し、それに備えて逃げ方を繰り返し訓練。中でもとくに効果を発揮したのが「津波模型」によるシミュレーションだった。
津波模型は、宮古市など三陸沿岸の街並みを再現した立体模型。津波発生装置の水槽のボタンを押すと、水が一気に流れ込み、大きな波が陸地に押し寄せるという仕組みだ。
岩手県立宮古工業高校の生徒たちが平成17年度から課題研究の一貫として、手作りで製作。市内の小中学校などへの出前授業を長年行ってきた。
「普段、自分たちが住む地域の形状や特質など誰も気に留めないと思います。ですがそれを知ることで、災害の起こりやすさや街の弱点、避難経路などを正確に把握できます」と津波模型作りの指導に当たってきた機械科実習教論の山野目弘さん(65才)は言う。
「模型は、津波がどの方向からどのぐらいの高さで襲ってくるか、どの場所が安全か…などが一目でわかります。津波が襲ってきたときの避難路を黄色のラインにし、自分の家や学校からどのように逃げればいいのかを子供たちに覚えてもらいました」(山野目さん、以下「」同)
実演を開始すると、子供たちは食い入るように見つめた。津波を起こすと、「あっ、学校がやられた」「ぼくの家もやられた!」と誰もが真剣な表情。中には「怖かった」と手に汗握る子もいたと言う。
震災前、全国で行ったイベントは60回。市内の小中学校15校では23回にわたって実演。震災の1週間前に授業を行った学校もあるそうだ。そして驚くのは、この授業を受けた児童・生徒の中に、津波犠牲者が1人も出なかったということ。
「その結果を聞いて、私自身が驚きました。頭の中だけで理解するだけでなく、実際に目で見て疑似体験することの重要性を改めて感じました」
現在、この津波模型による防災教育は全国に広がりつつある。南海トラフ巨大地震の津波対策に生かしてもらおうと、宮古工業高校の生徒たちが高知の模型を製作。高知県立須崎工業高等学校に贈呈した。山野目さんは言う。
「今までは津波についての実演会がほとんどでしたが、これからは自然災害全般を加えた模型作りを考えています。自分が住んでいる場所がどんな地形か、地盤はどうか、土砂崩れは起きないか、標高が高い場所はどこか。地図を眺めるだけでいいので、今一度、自分の足下を見直すことが大切です。子供を守るためにも、いつ襲ってくるかわからない災害に備えてほしいものです」
※女性セブン2018年3月22日号