還暦にして富士登山や空中ブランコなどの体当たり取材や、客室清掃アルバイトなどさまざまな経験を持つ、女性セブンの名物記者“オバ記者”こと野原広子。そんな彼女が、今回は18年も連れ添った老猫の病気の医療費に5万円かけた体験を語る。
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散歩の途中、タタタと用事ありそうに道を横切る猫と出会うと無性にうれしくなる。だけど最近の“猫ブーム”にはすごく抵抗があるんだわ。テレビ、書店、街の雑貨屋、100均。先日は銀座の有名靴店のウインドーに飾ってあるパンプスまで猫、猫、猫で、世の中、猫だらけ。
先週号のセブンで“猫おばさん逮捕”について詳報していたけど、大きく勘違いする人だって出てくるって。
「猫には猫の生き方があるんだよ。それを曲げるのは人間の身勝手」
そう毒づいていた直後よ。18才の飼い猫が立ち上がれなくなったの。そのとたん私は、「猫としての生き方」もへったくれもなくなったんだわ。
◆18年連れ添った老猫を病院に連れていくと
ある朝見たら、うちの猫が左足の足の甲を下にして、引きずりながらトイレに行くの。その翌日には、エサも食べず、トイレにも行かずに椅子の下でじっとうずくまって、呼びかけると、かすれた細い声が返ってくる。
「そら、長いことないな。年も年だし、覚悟した方がいいよ。年をとった猫に薬をのませると、最後に苦しむよ」
そう言ったのは、田舎でたくさんの犬猫に囲まれているE子(61才)だ。
「私もそう思うよ」
その時はそう言ったのに、翌日には、猫をケージに入れて動物病院へ急いでいるんだよ。若く情熱に燃えた獣医師がそろっている病院で、「じゃ、診察します」と言うなり、血液検査に心電図、エコーをあて、「心臓の動きが弱っていて、足が動かないのはそのせいです」と強心剤を出され、3万4800円。1週間後の再診で3週間の薬を処方され1万4400円。
茨城の89才の母親が知ったら、「罰当たりッ」とどれだけ怒るか。昭和初期に農家で生まれた母親は、犬や猫はかわいがるけど、死んだらそれまで。人が手を入れて命を長らえさせるもんじゃないという、カッコたる考えがある。
「生態系を壊すな」なんて気の利いたことは言わないけれど、そういうことを言いたいんだろうなと、納得はするの。
だけど薬が劇的に効いて、食欲が戻り、掃除機で体を吸わせ、身をよじって喜ぶ姿を見ると、薬をやめる踏ん切りがどうしてもつかないんだよ。