近年、日本の優れた鉄道技術が輸出され、途上国のインフラ整備に大きな役割を果たしている。背景にあるのは、戦後の経済復興、高度成長期に製造された車両の“世代交代”だ。
1950~70年代に登場した車両は性能を向上させた新車両に入れ替わり、現役を引退した中古電車は海外に、無償に近い価格で譲渡された。これまで海を渡った車両は1100を超え、アジア諸国を中心に多くの人々の生活を支えている。世界各国の鉄道を撮る写真家で、鉄道史研究家でもある白川淳氏が解説する。
「日本国内の安全基準が厳しいことから、整備・維持費用を考えると、数十年走らせた後は省エネの新車と置き換えた方が安いという事情があります。一方、日本製の車両は頑丈で、丁寧に保守管理されているので、まだまだ走ることができる。途上国では、1両数億円の新車両よりも、輸送費を負担する程度の金額で手に入る中古車両のニーズが高い。ODA(政府開発援助)の一環で日本政府が輸送費を負担することもあります」
日本の鉄道会社にとっても、1両の廃車につき数百万円の費用がかかるため、タダ同然でも引き取ってもらった方が有難い。相互利益の関係が成り立っている。これまでインドネシアやミャンマーなどに600両以上の車両を譲渡したJR東日本は、「2020年までに、あと336両をインドネシアへ送る予定」(広報部)という。東京メトロは1995年からアルゼンチンに131両、インドネシアへは400両を譲渡した。ほかにも伊勢鉄道、名古屋鉄道など、多くの鉄道会社が鉄道車両を送り出している。
だが、日本の車両が人気の理由は安さや丈夫さだけではない。
「レールの幅は世界標準が1435ミリですが、日本は狭くて1067ミリ。東南アジア諸国は日本と同じか、1000ミリなので、あまり手をかけずに日本製車両を導入できます。最近の車両は電子部品などに最新技術が使われていて複雑ですが、昔の車両は造りがシンプル。保守のしやすさからも海外で好まれています」(前出・白川氏)