数多くの人々に愛され続けている劇団四季の作品。どうして、これほどまでに多くの観衆の心をつかむのか。その秘密に迫ると“5つのキーワード”が浮かび上がった。
【1】作品至上主義
松本白鸚の『ラ・マンチャの男』や故・森光子さんの『放浪記』など、看板俳優が公演を引っ張るロングラン作品は数多くあるが、劇団四季では俳優の名前を前面に出さない作品至上主義をポリシーとしている。
かつて劇団四季の取締役を務めた音楽評論家の安倍寧氏が言う。
「通常、集客力のある俳優をメーンキャストに抜擢しますが、劇団四季では登場人物1人に対して、複数のキャストを立てます。例えば、主役のアラジンであっても日替わりで役者が変わる。世間的に名前が全く知られていない俳優が主演や準主役を演じていることもザラです。当初は“名前もわからない役者の演技に高い金を払いたくない”といった声もありましたが、今では作品のクオリティーの高さが周知されて、そういった批判的な声も聞かれなくなりました」
劇団四季代表の吉田智誉樹さんが言う。
「お客様に見ていただきたいのは“俳優”ではなく、あくまで“作品”なんです。どの日、どこで見ても同じ感動を届けなくてはいけないという思いでいます」
また、ロングラン公演を前提としている四季では、特定の俳優だけが1つの役を務められるわけではない。
「ライオンキングは今年上演20周年を迎えます。例えば、初演時に20才でシンバを演じた俳優が40才になった今も当時のパフォーマンスを維持しながら舞台に立つことは難しいでしょう。作品の寿命は、俳優の寿命より長いんです」(吉田さん)
【2】入るより生き残る方が難しい
作品を守るため俳優の育成も厳しい。役を射止めるまでのステップは何段階にも分かれていると『リトルマーメイド』のアリエル役の若奈まりえが言う。
「オーディションを受けて合格すれば台本をもらえて、作品の稽古に参加することができます。ただし、この時点では役に選ばれたわけではない。稽古を重ねて、ようやく劇場でのお稽古へ進んでも、“やはり役のイメージに合わない”と判断されることもある。晴れて舞台に立てたとしてもレベルを維持できなければ即降板を言い渡されます。それほどまでに“作品第一”なのです」