作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を語り合うシリーズ。今回は、安倍晋三首相の戦後レジームとの向き合い方について語り合った。
片山:2014年7月に集団的自衛権の行使容認が閣議決定されましたね。
佐藤:集団的自衛権の閣議決定と、消費税の引き上げに前後する議論で、公明党の政治的優位が確立されました。まず消費税は2014年4月に8%になった。それが10%になる際には、一部の生活必需品にかかる税を減らす「軽減税率」導入が模索された。これを積極的に提言したのは公明党でした。そこで官邸と財務省は、消費税引き上げにともなって、マイナンバーを使い、消費税の一部を還付する独自案を考えた。しかし、公明党は、消費者の負担軽減が限定的だとして反対します。
するとすぐにその話を引っ込めて安倍首相が「公明党とよく相談して」という談話を出した。官邸と財務省の決定を公明党がひっくり返すなんて、霞が関の常識では絶対にありえなかった。
その後の集団的自衛権でも公明党の理解を得られず、安倍首相は、山口那津男(公明党代表)に、行使容認は限定的だと認めさせられた上に、閣議決定案以上のことは憲法改正が必要だという言質をとられた。つまり、自衛隊を動かす余地が狭まった。
片山:安倍政権の悲願である憲法改正を実現するには公明党との決別しかない。でも決別したら選挙に勝てない。自公の関係は主義が異なる政党が野合する平成に起きた政界のカオス化の象徴ですが、呉越同舟の良さはあるでしょうね。国会の与野党対立よりも与党内調整の方が政治プロセスとしてはより重要であり劇的になっているようにも思えます。見えにくいですが。