新聞をめくって驚いた方もいるのではないか。「夢枕獏の変態的長編愛」──そう題された全面広告だ。今日(2018年3月25日)の朝日新聞朝刊に掲載されたその全面広告、実は作家の夢枕獏氏が「自腹」で出したものだという。
『神々の山嶺』『空海 ―KU-KAI―』と、次々と長編小説が映画化されている夢枕氏。今度は、35年以上続きいまだ完結を見ない『キマイラ』シリーズが、押井守監督で映像化されることが決定した。数々の話題作を持つ夢枕氏は、なぜ「自腹」で広告を打ったのか。その真意についてご本人にうかがうと、こう綴ってくれた。
「本の宣伝というのは、通常出版社まかせである。自分の本の読みどころを作家自身が語り、宣伝のプロデュースまでやるというのは、まず、ない。それを自分でやってみたかった。
さらに書いておくと、過去に出版された本を、あらためて宣伝し売るということは、映画化などが決まった場合は別だが、まずない。多くの作家がそうであると思うのだが、過去に出版された自分の本で、もっともっと読者に読んでいただきたいというものが必ずある。今回それを自らピックアップして、広告を出すというのは、とても出版社にお願いできるものではない。
こうなったら自分でやるしかない。費用対効果から考えると、おろかな行為であるかもしれないが、そういうことを、自分はまだまだやれる人間であるということを、自ら確認する意味でも、やるべしと思ったのである」
今回の全面広告で、夢枕氏が「もっともっと読者に読んでいただきたい」として選ばれた作品のひとつが、『大江戸恐龍伝』(全6巻)。構想から完成まで20年の、まさに超長編である。氏がこよなく愛する江戸の奇才・平賀源内が主人公の奇想天外SF時代小説だ。
夢枕氏は、『大江戸恐龍伝』への愛をこう記している。
〈ラストがいいんだなあ。書ききった感が、ごつんとあるわけです。
手応えとしたら『神々の山嶺』を書きあげた時と、感触が似ています。
書き残したものはありません。
書き出してからだけでも、十年かかっちゃいましたよ。
こんな手間のかかる仕事、今後、あらたに書き出したら、残りの寿命で書き終えることができるかどうか。
ああー
できることなら、作家として書くより、読者としてこれを読みたかった。
本当にそう思っています。
こんな、長い、職人の手仕事のような話、おもしろがって読んでくれる読者がいったいどれだけいらっしゃるのかぼくにはわかりませんが、これが、ぼくの考える「おもしろい小説」であることは書いておきたいと思います〉(『大江戸恐龍伝』「あとがき」より)
今回の全面広告では、夢枕氏の自筆原稿を約7年分積みあげた写真が掲載されている。その高さは、夢枕氏の身長を超えるほどだ。