1990年代に、少年が集団で中高年男性を襲撃し、金品を奪う犯罪「おやじ狩り」が注目を集めた。近年は、若者が集団で老人から簒奪する「老人狩り」と言ってもよいような犯罪が頻発している。彼らはなぜ、老人を狙うのか。ライターの森鷹久氏が、老人をターゲットにする若者たちの本音に迫った。
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筆者が取材したことのある「リフォーム詐欺」を行っていた男性が、5年ほど前に言い放った言葉を思い出す。
「正直、老人から金を取っても心が痛まない。俺たちには未来がある。日本の未来だって、若者にかかっている。老人は生きれば生きるほど金がかかる。その金を払っているのは若者だ。あとは死ぬだけ、という老人たちに金は必要ない」
今年2月、千葉県茂原市で、資産家の80代女性が少年たちによって殺害された。地元では「ヤンチャ」だと名を馳せていた彼らは、警察の取り調べに対し「金目的で高齢女性が住む家に盗みに入った」と供述しており、強盗殺人容疑で逮捕されたが、被害者女性と彼らに面識はなかった。
「少年らは資産家で一人暮らしの女性宅を狙っていたようですが、顔を見られたので女性を殺害したと話すなど、犯行はずさんで場当たり的。事件後、仲間内で“なぜ殺したんだ”などと揉め事になったとも言われていて、弱い者を狙った安易で卑劣な動機が浮かび上がってきます」
こう話すのは大手紙の事件担当記者。また、少年らを知る千葉県鴨川市在住の男性も、次のように証言する。
「改造バイクを乗り回すなどヤンチャな一面はあったが、人殺しをするほどの“悪党”ではなかった。建設作業員などの仕事をしていたはずだが、金遣いが荒く、金銭的に逼迫していたとは聞いている。そういう仲間が集まったことで気が大きくなり、後先考えず盗みに入ってしまったのではないか」
茂原の事件で逮捕された少年らも「年寄りからは金を取っても良い」「年寄りからは奪いやすい」と身勝手に考えたのだろうか。万一、被害女性に顔を見られることなく、無事に金銭を強奪できていたとすれば、少年たちは次々に独居老人宅に狙いを定めて、第二、第三の犯行に手を染めたことも、容易に想像できる。
冒頭で紹介した「リフォーム詐欺」に関わっていた男性。こちらも独居老人や身寄りの少ない高齢者宅を徹底的に調べ上げ、ピンポイントで訪問し、法外な価格で不必要な“床下換気扇”などの商品を売りつけていた。近しい業者の摘発が相次いだことで廃業に追い込まれたわけだが、その後も「老人」をターゲットにした商売を続けた。
「老人に響くのは、ズバリ“余生をどう過ごすか”と問うこと。老人ホームの優先入居を販売したり、葬式代を安く済ませるための共済への加入を進める、といった商売でかなり儲けた。今は下(部下)に任せて、一線からは抜けましたが、若い奴らの中には、あまり“上手くない”連中もいて、色々とトラブルを起こしていると聞いている」 この“上手くない”という表現であるが、男性がスキームを作り、今では部下に任せている老人をターゲットにした商売が“詐欺まがい”であることに他ならない証左である。