政治に翻弄されて転落した佐川宣寿・前国税庁長官の姿は、現在の霞が関官僚の象徴でもある。
「人事こそ霞が関の評価」といっても、彼らにとっての「出世」とは肩書きが上がることではない。経済産業省の局長経験者がいう。
「東大法学部を優秀な成績で卒業しても、入省してから課長になるまで20年、薄給で馬車馬のように働かされる。民間企業に行けばもっと待遇はいいのに、なぜ官僚になるか。それは権限が民間企業と比べてケタ違いに大きいからだ。本省の課長になれば一つの業界を丸ごと支配し、大手企業の社長より力を持てる。局長なら文字通り国を動かせる。課長で終わるか、局長や次官まで行けるかの人事によって官僚人生で得られる権限、達成感が変わってくる」
そのため他の官庁では同期の出世競争が激しいが、財務省だけは風土が違った。1人の次官候補が決まると、同期全員で盛り立てて次官に押し上げることで、国税庁長官、財務官、局長と2番手、3番手にポストを配分する。次官を出せない期はポストにも恵まれない。
「そうした同期の結束の強さ、人事ルールの厳格さで政治の介入を許さないことが財務省の強さだった」(財務官僚OB)
◆財務官僚の結束を崩せ
ところが、「政治主導」を掲げた安倍政権が官邸に内閣人事局を設置(2014年)し、霞が関の全省庁の審議官以上の幹部600人の人事権を握ると、財務省に大きな変化が起きた。
「安倍首相は省内で次官コースから外れていた元秘書官の田中一穂氏を次官にするために、あえて同期から3人の次官をたらい回しにさせるなど、財務省の人事に積極的に介入して結束を壊した。官邸を握った経産官僚の入れ知恵だった」(同前)