急性リンパ性白血病は、白血球の一種であるリンパ球が未熟な段階で悪性化し、がん化した白血病細胞が無制限に増殖する血液のがんだ。発症年齢のピークは3~5歳で、日本では年に約600人が発症する。頻度は少ないが、成人になって発症する例もある。
治療は複数の抗がん剤を投与する化学療法や造血幹細胞移植(骨髄移植)を行ない、現在日本では80~90%の子供が治癒している。しかし、問題だったのは骨髄移植後に再発した場合、効果的な治療法がなかったこと。そこで難治性の急性リンパ性白血病の治療として注目されているのがCAR-T細胞療法だ。
名古屋大学大学院医学系研究科小児科学の高橋義行教授に話を聞いた。
「CAR-T細胞とは、キメラ抗原受容体の遺伝子を導入したT細胞のことです。キメラとは本来存在しない人工物で、患者から採取した免疫細胞の1つであるT細胞と白血病細胞の表面にあるCD19という抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体を合体させ合成しています」
モノクローナル抗体は、病原菌やウイルスなどを発見し、抗体の尻尾の部分にくっ付いたナチュラルキラー細胞や補体が攻撃する。ただ外敵の認識力は高いが、攻撃力は弱い特性がある。逆にT細胞は免疫細胞の中で最強の攻撃力を持っている。CAR-T細胞は最強の攻撃力を持つT細胞に、がん細胞を認識できるモノクローナル抗体を合体させたもの。いわばレーダー搭載のT細胞だ。
またT細胞にはメモリー機能もある。例えば、おたふく風邪や麻疹にかかった場合、後にそのウイルスに感染してもメモリーT細胞が攻撃して感染を防ぐ。その上、攻撃対象がいる間はメモリーT細胞が増えるが、対象が消滅するとT細胞も減っていく。こうした便利なT細胞の機能をCAR-T細胞は備えている。