地元の住民たちにとって、この桜は平和と復興の象徴だった。
「伐採されると聞いた義母は、『生き物には寿命があるからしょうがない』と淡々と語り、『これまでがんばってくれたのだから、感謝しています』と気丈でした。だけどその表情はとても悲しげで…」
◆小3の息子にチェックしてもらいながら、返事を書いた
こうした声を代表したのが、前述の小4男子の手紙だった。
「文面を見て、街路樹を大切に思っている気持ちが伝わってきて、改めて地元の人からどれだけ桜が愛されていたかを実感しました。ですから、子供にもわかるように、きちんと説明しなければいけない、そう強く思いました」
志方さんはすぐに返事を書き、桜の木に張りつけた。
〈樹を大切に思ってくれてありがとう。この桜は、詳しく調査をしたところ、幹の半分以上が傷んでいて倒れる危険が大きいことがわかりました。木は重いので、倒れると人が大けがしたり、車が事故を起こしてしまう可能性があるんだ。
私たちも桜を大切に思っているけど、みんなの安全が大事なのでしかたなく伐採することになりました。赤色のテープを巻いていない桜は治療をしながらできるだけ長く残したいと考えているよ。お手紙ありがとう。これからも街路樹を大切にしてね〉
漢字にはすべてルビをふりイラストもつけた。
「文章もイラストも、うちの小学3年生の息子に事前に読んでもらいました。息子にはうまいやん、なんて笑われたけれど、きちんと伝わるだろうか、と必死で考えていた」(志方さん)
それから2週間後、住民から「返事が来ている」と連絡が入った。急いで桜の木の下に駆けつけると、今度は透明の封筒がくくりつけられていた。
「封筒の中には手紙と一緒にひまわりの種70粒が同封されていました。2通目の手紙には、“またさくらのきをうえてほしい。まちがげんきになるようにしてほしい”と書かれていました。ひまわりの種は、その強い願いを込めたものだったのだと思います」
志方さんは再び返事を桜に張り出した。今度は、大きく育ったひまわりのイラストも添えた。