演技力、芝居の幅という意味で考えた場合、「いつでも全力投球」が必ずしも正解とは限らないだろう。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が朝ドラについて指摘する。
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半年間続いたNHK連続テレビ小説『わろてんか』も本日いよいよ幕を閉じました。
葵わかなさんが演じた主人公・てんは日本初の女興行師。「どんなにつらい時も笑いで乗り越えていく」「笑いの神様がいるから大丈夫」とお笑いビジネスを切り盛りしていく一代記。吉本興業の吉本せいがモデルでした。
ほぼ全回『わろてんか』を見続けてきた視聴者の一人として、まずお礼を言いたい。今をときめく高橋一生さんと松坂桃李さんの、見たこともない姿を見せてくれたから。これまでで最も気力の抜けた姿を。人気絶頂の男優二人の新たな一面を発見する、まさしく希有な機会となりました。
高橋さんと言えば、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年フジ系)で凄く意地悪で虚言癖のある佐引穣次の役を、『カルテット』(2017年TBS系)では実に風変わりな家森諭高役を、そして『おんな城主 直虎』(2017年NHK大河ドラマ)では小野但馬守政次の一途ぶりを描き出し、どんな難しい役柄にも成りきっていく集中力と迫力に視聴者の心は揺さぶられ引き込まれてきました。だからこそ超の付く人気者となったのでしょう。
でも、今回はどことなく様子が違っていたようです。脱力感なのか生煮え感か。高橋さんが演じた実業家・伊能栞から、いつもの迫力や集中力が伝わってこない。プロの俳優として引き受けた仕事を淡々と「対処」していく雰囲気、と言えばいいのか。現実を生き抜いていくために時には「こなす」術も必要。という意味での大人な面、人間味すら感じてしまいました。高橋さんの新たな面を発見させてくれたこの朝ドラに感謝です。
一方、『ゆとりですがなにか』(2016年 日本テレビ系)で情けない童貞小学校教諭・山路に成りきった松坂さんは、舞台版『娼年』(2016年)では延々とセックスをする男娼・リョウの役を演じて大反響を呼び映画版へ。過激なシーンが盛り込まれたR18指定の映画『娼年』はいよいよ来週公開というタイミング。素朴派からハードコアまで挑戦的に演じる、今まさに脂の乗った役者に違いありません。
では、この朝ドラの中での松坂さんはどうだったでしょう?
松坂さんの役はてんの夫・藤吉。早々に逝去したけれど、てんが鈴を鳴らすたびに幽霊として登場。活き活きとしたいつもの目力はすっかり消えて焦点定まらず。魂が抜けたモノトーンの演技も幽霊だから当然なのか……。これまで松坂さんが見せていなかった脱色系の「芸幅」を目撃した気がします。それもこのドラマのおかげ。ありがとう。
と、人気俳優二人の「新たな面」を見ることができた朝ドラ。その二人に惚れられるオイシイ役が主人公・てん。