病は突然やってくる。自分の生活習慣や遺伝的要因から推測しても、早期発見は非常に難しい。毎年、勤務先で人間ドックを受診しているというAさん(58)が振り返る。
「人間ドックでは上の血圧は140。高めでしたが、大きな異常は指摘されませんでした。ところが昨年の秋、朝起きて歯磨きをしている最中に突然、心臓を握り潰されたような激しい痛みに襲われ、救急車で運ばれた。救急の医者から『急性心筋梗塞』と診断されてすぐにカテーテル手術を受けました」
一命を取り留めたが、不整脈などの後遺症が残ってしまった。Aさんが患った急性心筋梗塞は、一般的に胸の痛みや動悸、息切れが初期症状とされるが、それらの症状には心当たりがなかった。
ただし、発症の1か月前から“違和感”を覚えていたと言う。
「左の首筋から肩甲骨あたりにかけて、重苦しい痛みがあったんです。いわゆる五十肩の痛みとは違い、肩に重い荷物を乗せ続けているような痛みで、整体に通っても改善しませんでした。“何かおかしい”とは思っていたのですが……」
これがまさに心筋梗塞のサインだった。秋津医院院長の秋津壽男医師が解説する。
「心筋梗塞の場合、心臓の感覚神経と他の部位の感覚神経が混線してしまい、別の部位が痛いと誤認識してしまう『放散痛』が生じることがある。その場合、胸部だけでなく、肩や腕、小指、歯や顎が痛むケースも見られる。痛みは左半身に出る傾向が強いと言われています」