【著者に訊け】原りょう氏(りょう=僚のつくり)/『それまでの明日』/早川書房/1800円+税
西新宿の外れで探偵業を営む、〈沢崎〉の初登場から30年。このほど14年ぶりの最新作『それまでの明日』を上梓した原りょう氏(71)は、大のチャンドラー好きにして、寡作の人でもある。
「先日もサイン会で年輩の読者から釘を刺されました。『次作も14年後なら、さすがに僕は生きてないよ』って(笑い)。お待たせして申し訳ないとは思う一方、男の美学とか建前に留まらない本当に面白いハードボイルドを書くには、14年はギリギリ常識の範囲内とも思う。チャンドラーも確か、長編は7作だけですしね」
物語は、金融会社〈ミレニアム・ファイナンス〉の新宿支店長を名乗る依頼人〈望月皓一〉が忽然と姿を消し、彼が調査を依頼した赤坂の料亭〈業平〉の女将〈平岡静子〉も既に故人であることが判明するなど、のっけから不穏な気配が。しかも本書は「ハードボイルドとは何か」を日々問い続ける作家の、14年を費やした一つの答えでもあった。
著作は1988年のデビュー作『そして夜は甦る』以来、僅かに6作。前作『愚か者死すべし』以降をシリーズ第2期と位置づけ、「謎解きよりハードボイルド重視」の姿勢を打ちだした原氏を、佐賀県鳥栖市で兄が営むジャズバー、「コルトレーン・コルトレーン」に訪ねた。