続く3話では、「ヒロインの命名でまるごと1話分使う」という異例の仕掛けが見られました。2話のオープニングに「あっ、私、お腹の中の赤ちゃんです。名前はまだない」という胎児のセリフを入れたのは、3話の異例ぶりを印象づける前振りだったのです。けっきょくヒロインの名前は、鈴愛(すずめ)に決定。4話からは小学3年生の時代が描かれています。
ここまでヒロインは、「CGの胎児から、新生児の子役、小学3年生の子役と、すでに2度のリレー」が行われました。1週目にして2度のリレーが行われたことが異例の仕掛けであり、なかでも新生児の子役を起用したことで、「生まれたばかりの新生児2人が互いを意識するように見つめ合いながら寝ている」という名シーンが生まれたのです。
その他では、「ヒロインの願望がサブタイトルになっている」ことも異例の仕掛け。1週目のサブタイトルは「生まれたい!」でしたが、2週目は「聞きたい!」、3週目は「恋したい!」と、今後も最後まで続いていくそうです。
当作はスタート前から、近年ヒットの法則と言われていた「実在の人物」「戦前戦後の物語」などを排除したことが話題となっていました。「新たな朝ドラを作ろう」という攻めの姿勢だからこそ、1週目から異例の仕掛けが盛り込まれているのではないでしょうか。
◆好スタートを支えるベテラン俳優たち
1週目では早い仕掛けで話題を集めて好スタートにつなげましたが、2週目でも「鈴愛は小学3年生で左耳が聴こえなくなってしまう」という異例の展開が予定されています。ただ当作は、決して暗い物語ではありません。オープニングを見れば分かるように、鈴愛の類まれな発想力やユニークな感性を生かした物語であり、春の到来に相応しい明るさと爽やかさがベースにあるため、安心して見ていられる朝ドラになりそうです。
最後にふれておきたいのは、異例の早い仕掛けを支えている実績十分のベテラン俳優たち。前述した滝藤賢一さんと松雪泰子さんに加えて、祖父・仙吉役の中村雅俊さん、祖母・廉子役の風吹ジュンさん、運命の相手・律(佐藤健)の父・弥一役に谷原章介さん、母・和子役に原田知世さん、病院長・貴美香役の余貴美子さんらが、作品に安定感と安心感をもたらしています。視聴率の好結果も、「ベテラン俳優たちがリアルタイム視聴の多い中高年層を魅了しているのが大きい」と言えるでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。