【著者に訊け】山田詠美氏『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』/小学館/1350円+税
作家・山田詠美といえば熱血ポンちゃんシリーズをはじめ、エッセイも名手。本書『吉祥寺デイズ』でも日々の食卓から政治、文化芸能までを、時に手厳しく、時に優しく見つめる女っぷりに、おそらく憧れる読者は世代や性別を問わない。
学生時代に住んだ吉祥寺に舞い戻って20年。創作の傍ら毎日キッチンに立ち、仲間と飲み語らい、私生活では離婚や再婚も経験した彼女は、例えば2007年の小説『無銭優雅』に関してこう書く。〈お金を使わなくても、幸せな心持ちになれる街、場所、時、人々、そして、恋。そういう私なりのハピネスを散りばめた、しがない、けれども味わい豊かな中年カップルの日々のうつろいを描いた物語です〉。そんな小説家の日常こそ、優雅で〈日々甘露苦露〉だ。
玄関を入るなり目につく、「AMY,S CAFE」のボード。リビングの壁には思い出の写真やカード類が一面に貼られ、窓越しにたっぷり注ぐ陽ざし以上に、人の温もりを感じさせる。
「20年前、『AMYにぴったりの物件があるから、これから見に行こう』って友達に連れてこられたのが、このマンション。でも実は昔住んでいたのもこの近隣で、なんだか妙に縁がある場所なんです。
中央線沿線でも特に吉祥寺と西荻窪の間のこの界隈は、大人が気ままに生きていける街だと感じます。自分が過去に見てきたものや培ってきた思い出を面白がったり許してくれる人たちの存在が、街そのものの奥行や面白さを形作っているという気がします」