2016年12月にオープンした八戸ブックセンターは、青森県八戸市が運営している。市が本の販売に乗り出した背景には、八戸市長・小林眞さん(67才)の強い思いがあった。
「八戸を“本のまちに”が、市長選の政策公約の1つだったこともあり、市としては、教育プロジェクトの一環として“本を読む人、書く人”を育てたいと考えています。子供はもちろん、大人にも本に触れてもらって、そこからさまざまなことを学んでほしい。そのため、当センターは大人向けの品ぞろえが中心です」(八戸ブックセンター所長 音喜多信嗣さん・以下同)
行政の役割として、一般的な書店が扱いにくい分野の本も多く取りそろえている。
「売り上げよりも、いろんなジャンルの本があることを知ってもらいたいと思っています。それで、知への誘いとして、海外文学や自然科学、アート関連などの本を多数販売しています」
また“書く人がいないと本は生まれない”ことから、小説やエッセイなどの本を書きたい、出版したいという人が無料で利用できる執筆専用の部屋“カンヅメブース”も設置。カンヅメスペースには、机や椅子、Wi-Fiを完備している。
「作家がホテルや宿に詰めて執筆する“カンヅメ”からネーミングしました。長時間、執筆しても疲れないワークチェアを用意しているので、集中して書くのにぴったり、と利用者も多いですよ」
他にも同市出身の芥川賞作家・三浦哲郎(2010年逝去。享年79)が執筆に使った机のレプリカを設置した読書席や、体にまつわる企画展を行うギャラリーなど、本の虫にはたまらないコーナーも充実している。また、座り読みができるスペースにはハンモックも設置。近くには「愛」と「命の終わり」をテーマにした書籍が陳列されている。
「昨年12月から3か月間、八戸出身の小説家、木村友祐さんの『幸福な水夫』ができるまでの過程を展示しました。使用する用紙は三菱製紙八戸工場にご協力いただき、装丁や展示内容は人気ブックデザイナーの佐藤亜沙美さんに手掛けていただきましたが、ふだん目にすることのない“本作り”の現場を開示することで、さらに本に親しんでもらえたと思います」
ユニークな取り組みが全国から注目を集め、開館から1年で約18万3200人が同センターを訪れている。
※女性セブン2018年4月19日号