「触らない痴漢」が急増中だと4月初旬に報じられて以来、「新しい痴漢」の存在をよくぞ知らしめてくれたという賞賛があがる一方、痴漢冤罪が増えるのではないかと危惧する声が消えない。冤罪を危惧する人たちは、匂いをかぐなどの新しい痴漢が、予想以上に悪質なことを知らないだけではないのか。ライターの森鷹久氏が、匂いをかぐ、髪の毛に顔を埋めるなど偶然を装った新しい痴漢の形態についてレポートする。
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「触らない痴漢が存在する」
例えば、満員電車で隣り合う女性の頭に顔を近づけ「匂いをかぐ」。これが痴漢に当たるのだとしてネット上で話題になっているが、女性からは「わかる」「経験がある」といった声が上がっているのに対し、男性側からは「息もできないのか」「電車に乗れない」などといった困惑の反論が続出している。
決め手は「相手がどう感じるか」ということに尽きるというが、確かに「痴漢かどうか」の線引きは難しい。悪気はなくとも、セクシャルな言動によって相手に不快な思いをさせてしまう可能性は誰にでもある。ネット上では「防衛策は異性と接触しないようにするしかない」などとヒステリックな意見も飛び出すほどであるが、複数の女性に冷静に話を聞いていくと、痴漢やセクハラの悪い意味での進化は、どうやら間違いのない事実のようでもある。
「体を堂々と触ってくる痴漢は減った。でも電車の動きに乗じて下半身を押し付けてくる、髪の毛に顔をうずくめてくる、といった男性が増えた」
こう話すのは、十代なかばから電車やバス内での痴漢被害にあい続けてきた女性(25)。”堂々と触ってくる”痴漢であれば、手を払いのけたり睨み返したり、声を上げて痴漢を指摘し、周囲の客らと協力して、駅員や警察に痴漢男を告発できた。しかし、前述のような偶然を装った痴漢行為については「私の勘違いかもしれない」「偶然かもしれない」といった思いが先行し、具体的な対応策が取れない場合がほとんどだという。
この女性の場合は、あまりにもこんな”偶然”が頻発することから、男性らが意図的に行っていることを確信するようになった。また、別の女性も痴漢と同じく性的な目的をもった「新たな手口の存在」を訴える。
「お店にほぼ毎日のようにやってきては、商品について話を聞くふりをして、何時間も話しかけられる。付き合っている人はいるのか、一人暮らしなのか、出身や年齢は……と、個人情報を聞き出そうとしてくる。ひどい時は3時間近く相手をしなければならない。相手はお客様だから対応せざるを得なく、店長や本社に相談してもどうしようもない。警察を呼ぶわけにもいかないし……」
こう話すのは、神奈川県の巨大ショッピングモール内にある女性向けアパレル商品店で働くMさん(28)。女性向け店舗に男性が来る、といった部分だけでもある種の”意図”を感じるが、店員は客を無視できない、という立場を悪用し、様々な方法で女性に接触を試みる。わざとモノを落として女性に拾わせて体に触れようとしてくることもあった。「セクハラ」も日常茶飯事であり、胸が大きい、足が細いなど、男は「女性をほめている」つもりなのかもしれないが、女性にしてみれば気持ち悪すぎる発言が繰り返される。
近隣の女性向け下着店には「妻のもの、娘のもの」を買いに来た、と白々しいウソをついて、下着や女性客、女性店員を定期的に物色しに来る男性もいるのだという。セクハラ行為であるだけではなく、ほかの女性客が気味悪がって店を出て行くこともあり、もはや立派な営業妨害にもなっている。