キャンプの不安を一掃する開幕ダッシュに大成功した大谷翔平に、日米メディアが賛辞を惜しまない。だが、適応しなければいけない敵は球場外にも待ち受けている。1995年の野茂英雄以降、これまで二千試合を現地で取材したスポーツジャーナリストの古内義明氏が、大谷の「見えざる敵」を解説する。
* * *
アメリカのスポーツメディアが大谷翔平を語るとき、球聖ベーブ・ルースの写真とのセットがもはや定番となった。キャンプでの散々な数字から大谷を酷評していた大手メディアも、100年前の伝説の選手を引き合いに出して、懺悔する掌返しの結果になった。
それにしても、キャンプの不安を払拭するに充分なオープニング・ウィークでの投打に渡る「二刀流」の大活躍は、日本選手最速・最年少での週間MVPを受賞し、名刺代わりとなった。
上昇気流に乗る大谷だか、残り試合は150試合以上もある。マラソンで言えばまだ競技場から公道に出たに過ぎない。ここからが本当の勝負の始まりだ。
1995年から過去50人を超える日本選手を取材してきた立場として、大谷が今後直面するグランド外の敵を指摘したい。
開幕を敵地オークランド、そして本拠地アナハイムという西海岸で迎えた大谷はテキサス州アーリントンからミズーリー州カンザスシティという遠征中だ。
メジャーの遠征はプライベートが確保されたチャーター機の移動。選手バスがタラップまで横付けされるからセキュリティの煩わしさもなく、エコノミー席が2、3席割り当てられるスタイルだ。前方のファーストクラスは球団幹部や首脳陣が座り、機内の後方に行くに従って、ベテラン選手が座る傾向にある。ルーキーの大谷は前方部になるはずだ。
機内では睡眠が王道。トランプやDVD・音楽・読書が定番で、WiFi環境が整備された昨今はネット利用が盛んで、株や為替の資産運用に励む猛者もいる。
現地に到着すれば、選手専用バスが横付けされ、そのまま滞在先のホテルに直行する。通常であれば、列に並ぶチェックインもスルー。各自が決められた部屋に直行する。
労使交渉で選手会が勝ち取ったホテルはフォーシーズンズなどのファイブスターばかりで、ラグジュアリーな空間が約束されている。選手のリクエストも多種多様だ。禁煙・喫煙から始まり、ツインやキングサイズベット。低層階から高層階。そして、中にはスィートルームの特権を勝ち取るスーパースターもいる。外出せずにルームサービスで食事を済ませる選手もいて、宿泊費以外の清算は当然チェックアウト時に自分で行う。
今回、日曜日のデイゲーム後にアナハイムを出発した大谷は、時差が1時間しかないテキサスへの楽な移動だった。これがナイトゲーム後のニューヨーク・ヤンキース戦の移動ならば、3時間の時差で、ホテルのベットに入るのは、明朝6時や7時は当たり前。時差や睡眠不足に悩まされ、目が充血することから、通称レッドアイと呼ばれている。しかも、翌日の先発ともなれば、通常の野手集合時間より前にヤンキースタジアムのブルペンで調整しなければならない。因みに遠征先では球場までの選手専用バスが時差式で2台準備される。