母親のダイナマイト心中、雑誌の度重なる発禁、借金地獄、不祥事発覚に伴う退社……。地獄に何度落ちても、なぜ男は柔和に飄々と生き続けられるのか。最盛期の発行部数が35万部の『写真時代』、90万部の『パチンコ必勝ガイド』などを創刊したことで知られる“伝説の編集者”末井昭(69)の自伝を原作とした映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』が公開中だ。
「話をいただいた時、まさかと思いました。僕なんかの原作でヒットするわけがない。できるものならやってみろと(笑い)」
末井役に柄本佑、母役に尾野真千子、妻役に前田敦子という豪華キャストが並び、劇中ではアラーキーこと写真家・荒木経惟、クマさんこと芸術家・篠原勝之など、著名人の若かりし日の姿も描かれている。
バスも通らない岡山県和気郡に生まれた末井が小学1年生の時、肺結核を抱えていた母親が隣家に住む10歳年下の男とダイナマイト心中を図った。
「子供の頃、その出来事はずっと心の中に留めておきました。人に話しても同情されるだけの気がして。でも、デザイナー学校に入って表現する立場になると、誰も体験してないことだから『自分は選ばれた人間だ』という傲慢な気持ちが生まれ、友人に何度も同じ話をするようになりました」
キャバレーの看板描きなどを経験し、27歳を迎えた1975年、創業者である森下信太郎の誘いでセルフ出版(のちの白夜書房)に入社し、エロ総合誌『NEW SELF』を創刊。自らの興味の赴くままに、嵐山光三郎や赤瀬川原平などに原稿を依頼。グラビア撮影では荒木経惟に白羽の矢を立てた。