大河ドラマや映画、小説の題材となる武将や将軍、維新志士たちがみな「聖人君子」だったかというと、さにあらず。人間臭く、あるいはだらしない面もあった。さらには、イメージと異なる面もあったのだ。著書『ざんねんな日本史』(小学館新書)が話題の歴史作家・島崎晋氏が、偉人たちの“本当の姿”を明かす。
◆インサイダー取引に手を染めた鬼平
テレビドラマ『鬼平犯科帳』シリーズの主人公、長谷川平蔵は、強盗や賭博を取り締まる「火盗改(かとうあらため)」という役人である。そんな江戸時代の警察官でありながら、“不正な手段”でカネ儲けしていた。
平蔵は犯罪者に職業指導して更生させる「人足寄場(にんそくよせば)」の管理・運営を任されていた。人足寄場が財政難に陥ると、幕府から3000両を借り、それをタネ銭にして、平蔵は“投資”を始める。
そのやり方がまさに「インサイダー取引」だった。松平定信の側近であった水野為長の著わした情報記録集『よしの冊子』には、役人の特権を使って銭貨の交換市場に幕府が介入する時期の情報を事前入手すると底値で買い占め、介入で跳ね上がったところで売り抜けた──という記録が残っている。
当時、相場で大損した人々からは非難囂々だった。