映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、人気女優だった岩下志麻が篠田正浩監督と結婚した当時のこと、母となっても女優を続けたことで生まれた葛藤について語った言葉をお届けする。
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今回も岩下志麻の女優人生をインタビューさせていただいた新刊『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』から印象的な「言葉」をお届けする。
岩下は一九六七年に篠田正浩監督と結婚している。女優が今でいうアイドルに近い人気商売だった時代、しかも当時はまだ「女性は結婚したら家庭に入る」という固定観念もあった。そうした中でトップ女優が結婚してしまうことに、岩下が所属していた松竹は慌てたという。
「私をこれから売り出そうという時でしたから。当時は今と違いまして、結婚したら女優は引退して家に入ることになっていました。今は結婚して子どもを三人ぐらい産んでもまた主演できるじゃないですか。当時では考えられない。ですから、本当に反対が多くて。松竹の重役さんが入れ代わり立ち代わり来て、『今は結婚の時期じゃない。これだけ主演作を用意しているんですよ』と台本も持っていらして。『それでもあなたはある一人の男の所有物になるんですか』みたいなことを言われました。
それで私も、周囲の人の九九パーセントから反対されるので意地になってしまいまして。幸いにも両親はわりと放任主義でしたから、私の思うままにという感じでそっとしておいてくれたんですけど──周囲からあまりに反対されるので、逆に『結婚してみよう』という気になっちゃったのね。『いいじゃない。結婚して駄目ならもうそこまでの女優よ』と。
ですから、結婚が女優としてプラスになるよう、結婚してさらにいい女優になろうという決心で、結婚に踏み切りました」