このところ「不調」ばかりが伝えられた伝統の「月9」だが、この作品は流れを変えるかもしれない──。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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かつての勢いはどこに? 平均視聴率で民放キー局中4位と低迷しているフジテレビ。挽回をねらって大幅改編に踏み出しています。中でも看板の「月9」ドラマの先行きに注目が集まっている状況下、いよいよ長澤まさみ主演の『コンフィデンスマンJP』がスタートしました。
長澤さんが演じるのは信用詐欺師のダー子。冴えた頭脳の持ち主で、どんでん返し満載のシナリオを編み出す一方、天然でどこかつかみどころがない不思議な存在。そして東出昌大演じるボクちゃんと小日向文世のリチャードの3人が詐欺仲間となり、悪徳富豪をターゲットにその莫大な財産を根こそぎ騙し取っていく。だましだまされ二転三転する一話完結型の冒険譚、ということらしい。
その第1話は……スカっと爽快、めくるめく展開。実に小気味良いスピード感で新鮮な印象を残しました。
まず、何と言っても見物はダー子です。着物姿の賭博師から、突如マルサの女になり、飛行機のキャビンアテンダントへ、くるくると変身。キャラが変転していく速度感のみならず、徹底した「なりきり感」もいい。容姿や色気といった女の武器に依存せず、どこか自分を突き放し冷静に客観視している仕事師ぶり。だからこそ、見事に別人格に乗り換えていけるのです。
秘書からオタク、大物女優から山形弁や中国語を操る人物へと今後も多種多様なキャラに扮してくれるそうで、長澤さんはいよいよ日本を代表するコメディエンヌの風格。大注目です。
一方、東出さん演じるボクちゃんもハジけています。茶髪のホスト、アロハに短パンのチンピラ街道まっしぐら。躊躇がみじんも感じられないのがいい。昨年のドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS)で粘着質の不気味な夫を演じ、殻を破る手応えを得たのかも。「外れる」ことを恐れず奇妙なキャラを突き詰めていく姿は拍手です。
そこへ小日向さん演じるリチャードの落ち着いた詐欺師ぶりが重なりあって、いい味を出す。まさに「扇の要」、まとめ役としての小日向さんの存在が機能しています。
そして第1話のゲスト・江口洋介も光った。慈善団体の紳士を装いつつ実は“日本のゴッドファーザー”と囁かれるヤクザの親分・赤星栄介を演じた江口さんが、渋い顔を作れば作るほど、見ているこっちは「クスっ」と笑いを漏らさざるをえない。『ガイアの夜明け』のナビゲーターや『BG』の警視庁SP役で見慣れたあの生真面目風の渋顔の、まさにパロディ版として見えてくるあたりシャレが効いています。
「大金をまきあげる詐欺師たち」という設定から、古典的名作映画『スティング』を思い浮かべる人も多い。とはいえ、このドラマから私は「メイドインジャパンのコメディ」の特徴、日本独特の色合い風合いを強く感じます。