すっかり春めいた4月初旬の週末。最先端の流行を発信し続けている東京・渋谷のランドマーク「SHIBUYA109」は、10代、20代の女性で賑わっていた。ビル内のカフェでは女子高生の集団がパンケーキをほおばり、アパレルショップでは友達とともに夏物のワンピースを何着も試着する女の子の姿があった。
そんな平和な風景を暗転させる恐ろしい知らせが舞い込んできた。ひとたび震度6強の地震が起きれば、この建物は大変なことになるというのだ。
3月29日、東京都は「耐震診断結果」と題するリストを発表した。耐震基準が現在のものに改められたのは1981年5月だが、それ以前に建てられた大規模建築物の耐震診断結果が初めて公表されたのだ。
調査の実施は2013年施行の「改正耐震改修促進法」に基づくもの。倒壊すると道幅の半分以上をふさぐ恐れがある建物と、不特定多数が利用する病院や学校など852棟に耐震診断を義務づけている。
診断結果によると、安全性評価が最も低い「I」(震度6強以上で倒壊の危険性が高い)に認定された建物は156棟、「II」(倒壊の可能性がある)とされたのは95棟。
この中には、前述の「SHIBUYA109」のようなランドマーク的建築物が多数含まれていた。紀伊國屋書店新宿本店のある「紀伊國屋ビルディング」や、ロアビルの名で知られる「六本木共同ビル」などの商業施設のほか、「科学技術館」や「日本消防会館」などの文化施設も名指しされた。
何より心配なのは医療施設で、「日本大学医学部附属板橋病院」、「東邦大学医療センター大森病院1号館」といった大規模病院の名も並んでいる。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さんが解説する。
「現在の新耐震基準は1978年の宮城県沖地震を教訓に、1981年に改められたもの。地震による建物のねじれに耐えられるように基準を引き上げたのが大きな変更点です。今回『倒壊の危険性が高い』としてリストアップされた建物は、耐震基準に達しておらず、首都直下型地震が起きたら最初の一撃で倒壊してしまう危険性があります」
首都直下型地震は今後30年以内に70%の確率で発生するとされ、M7・3の地震の場合、2万3000人もの死者が出ると想定されている。