視聴者の反応は即座に響いてくる時代。ならばそれを生かさない手はない、というスタンスでつくられた作品もある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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続々とスタートしている春ドラマ。ずらり話題作が並びますが、まずは女性視聴者の心に火を点ける、明確な「狙い」を持った作品に注目。
『あなたには帰る家がある』(TBS系金曜午後10時)は、「妻の本音」を反映したドラマ作りを目指し、事前に100人以上の人にリサーチをかけ、夫について、子育てについて、仕事と家事の両立について徹底調査したとか。夫婦あるあるネタを盛り込んだ、と宣言するだけあって、たしかにセリフ一つ一つが妙に生々しくてリアル。
事前調査だけではありません。
番組の公式サイトに視聴者書き込みコーナーが準備され、そのネーミングが「あなたには語る場所がある」。ドラマタイトルをもじったシャレ感満載。
ドラマの舞台は……結婚13年目の夫婦の日常。主人公は職場復帰したばかりの真弓(中谷美紀)。一人娘は中学生になり手が離れたタイミング。今後自分はどう生きるのかを考え、以前の職場・旅行代理店の仕事に戻ることに。一方、夫の秀明(玉木宏)は、妻の復帰にはさほど協力もせず深く理解もせず。そして、営業先の顧客妻の色香に引き寄せられ……友達ノリ夫婦の倦怠は大きなズレと溝に直面しています。
いわゆる「ワンオペ」の憤怒爆発。共働きなのにろくに家事もしない夫に対して、「お互い仕事して疲れているのに、なんで先に帰ったら洗濯物取り込もうとか食器ぐらい下げるとかできないわけ?」「ゴミ出したくらいで家事やってるつもり?」
中谷さんが吐き出す悲鳴にも似た台詞。100人リサーチが効いているのでしょうか、ド迫力。「ガス抜きドラマ」という新たなジャンル確立?
ドラマの狙うところは女性視聴者の「共感」。でも、「見ていてリアルすぎてつらい」「メンタルに響きそうだからこのドラマは見ないつもりでいたが、テレビをつけたらつい見入ってしまった」という声も聞かれます。「共感」の域を超えたちょっとアブナい刺激にもなりそう。
「せっかく封印し我慢して家事しているのに夫婦一緒に見たら危険」という声もある。
真弓が語るのは、多くの「妻」が共感するセリフの数々。けれどそれは同時に、口に出したら終わりというファイナルワードでもある。だからみんなぐっと我慢してきた。そうした「暗黙の了解事項」に、このドラマは手を突っ込み火を点ける……?
投稿コーナー「あなたには語る場所がある」を恐る恐る覗いてみると、「私は家政婦でもないし、酒の肴を作る飲み屋のおかみじゃねー」「夫はATMと思って我慢している」「旦那の洋服、下着は雑巾と一緒に洗う」など、ヒリヒリするような言葉が並んでいます。
このドラマが視聴者にとってガス抜き効果となるのか、あるいは寝た子を起こすヤバい刺激となるのか。いずれにしても、視聴者の反応を引き出したという意味では、制作陣の狙い的中でしょう。
主演・中谷美紀さんの「主婦ぶり」も見所の一つです。
実は当初、中谷さんが主婦役とは何かしっくりこないなと思ったのですが、ドラマが始まってみると、その奮闘ぶりから「新境地を開こう」という役者魂のようなものも伝わってきます。
「私は行かず後家と言われて久しいのですが、真弓を演じれば演じるほど、もともとなかった結婚願望がさらになくなっていきそう」と中谷さんご本人も自虐的にコメントしているほど腰が据わっている。つまり、自分は「主婦」というものに対して幻想も無ければフィットもしないけれど、いったいどれくらいまで成り切れるのか挑戦したい、そんな強い意欲を感じます。