パワーハラスメントやセクシャルハラスメントというと、男性が加害者、女性が被害者というケースがニュースとして報じられることが多い。しかし実際には、女性が加害者で男性が被害者ということも珍しくない。ライターの森鷹久氏が、パワハラ被害を受けた男性たちの思いを聞いた。
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月曜日の朝、派遣社員の野村真一さん(仮名・36歳)は、勤務先の最寄駅に降り立った後、足がすくんでしまい動けなくなった。また今日から、地獄のような5日間が始まる……。冬だというのに、額から滝のように汗が流れ、手の震えも止まらない。
「お恥ずかしい話ですが、私はパワハラ、セクハラを受けています。弱い人間だから、と言われるのを覚悟でいいますが……、女性の上司からの度重なるプレッシャーに、もう耐えられなかったのです。」(野村さん)
野村さんは某広告代理店子会社の契約社員として、29歳の春から働き始めた。親会社からの指示で、クライアントのポスターやポップ、計器類などのデザインを行う部署に配属されたが、そこにいたのは社内で「お局」と呼ばれている、10歳年上の同じ派遣社員の女性上司だった。
「とにかく言い方がきつい。失敗したら、あえて人が大勢いる前で死ね、辞めろと罵倒される……。また、少しでも言い返そうとしたら、さらに上の上司に告げ口され、仕事をさぼった、やる気がないなどとありもしないことを報告されます。休日や深夜にも電話がかかってきて、些細なことで時間外業務を強いられ続け、だんだん体調がおかしくなってきました」
体調の変化に気が付いたのは、入社後一年が経過したころ。夜眠れなくなり、大好きだったお酒を体が受け付けなくなった。何をしていても女性上司の顔が頭に浮かび、食事もとれず、仕事に行こうとしても、自宅玄関前で数十分も立ち止まるようになっていた。
さらに、野村さんには結婚を考えていたパートナーがいたのだが、女性上司は、その見たこともないはずのパートナーも罵倒した。
「あんた(野村さん)なんかと結婚して、その女はバカだとほかの同僚と笑っていました。派遣で貧乏のくせになどとも……。その上司だって同じ派遣で未婚なのに……」
しかしそれでも我慢したのは、やはり「女性上司にいびられて参っている」という自分が許せなかったからだ。セクハラもパワハラも女性が男性から受けるもの、と考えていた野村さん。一度別の上司に相談したが“あのおばさんの言うことだから”と一笑されたこともあった。