3月29日、東京都は「耐震診断結果」と題するリストを発表した。耐震基準が現在のものに改められたのは1981年5月だが、それ以前に建てられた大規模建築物の耐震診断結果が初めて公表されたのだ。結果によると、安全性評価が最も低い「I」(震度6強以上で倒壊の危険性が高い)に認定された建物は156棟、「II」(倒壊の可能性がある)と診断されたのは95棟。
含まれたのは「SHIBUYA109」や「紀伊國屋ビルディング」、ロアビルの名で知られる「六本木共同ビル」などの商業施設。他にも、「科学技術館」や「日本消防会館」などの文化施設も倒壊危険ありとされた。
現実を見ると、ビル側の対策は遅々として進んでいない。背景には、ビルで働く人や利用者の“事情”があるという。
東京都から「倒壊の危険性が高い」とされた建物の中に「ニュー新橋ビル」がある。1971年竣工、新橋駅前のSL広場を見下ろす恵まれた立地ということもあり、飲食店や金券ショップ、マッサージ店など“サラリーマンの聖地”らしいテナントが軒を連ねる。同ビル内で飲食店を経営する女性が言う。
「地震が来たらと思うと確かに怖いけど、どうしようもない。だいたい補強工事や建て直しっていうことになったら、その間は営業できない。私たちはどうやって食べていけばいいのか。都が補償してくれるのならいいけど、そんなの無理でしょう?」
耐震診断に疑問の声を上げるのは別の男性店主だ。
「3.11のあと、このビルは非破壊検査というチェックをして、大丈夫だって太鼓判を押してもらったばっかり。7年やそこらで耐震性が下がったりするのはおかしいと思う。計算方法の違いとか、そういうお役所の事情に振り回されるのは御免だね」
利用客からも「長年利用しているので、変わらず営業してほしい」という声が聞こえてきた。
一方、商都・大阪に目を転じると戦後、闇市の跡地に建った1970年竣工の「大阪駅前第1ビル」も「倒壊の危険性がある」としてリスト入り。ビル内でランチをしていた50代のサラリーマンに話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「地震は確かに怖い。飲食店の多い地下2階の店に行くから、火事にも巻き込まれそう。せやけど、ここには安くておいしい食堂や居酒屋があって、昼も夜もここにいてます。道1つ隔てたら北新地やけど、そこは物価が全然ちゃう。10分の1の値段でうまいもんが食えるここに、これからも通い続けますわ」