派閥政治全盛の時代、自民党の総裁選は派閥領袖たちの利害打算と合従連衡で投票前に勝者が決まった。ここ数年自民党は「安倍一強」と言われてきたが、最近は揺らぎも出ている。共同通信の世論調査(4月14~15日調査)の「次の総裁にふさわしい人」で1位は石破茂・元幹事長(26.6%)、2位・小泉進次郎氏(25.2%)、3位が安倍首相(18.3%)となったのだ。
「安倍一強」体制が崩壊し、総裁選が本命不在となると、自民党ではそうした派閥政治の力学が復活した。
現在の党内バランスの中で「次の総裁」を決定づけるキャスティングボートを握っているのは、「キングメーカー」と呼ばれる麻生太郎・財務相や二階俊博・自民党幹事長でも、「影の総理」と評される菅義偉・官房長官でもない。ましてや、権力を失いつつある安倍首相には、後継者を指名する力は残っていない。長年、自民党の派閥抗争史を取材してきた政治ジャーナリスト・野上忠興氏が語る。
「総裁選の歴史では、各派閥の合従連衡で勢力が拮抗した時、思わぬ人物が勝敗のカギを握ることがある。
田中角栄と福田赳夫が争った1972年の総裁選では、まだ小派閥の領袖にすぎなかった中曽根康弘が、福田陣営から田中陣営に寝返って田中内閣ができた。現在の自民党の状況は、麻生氏、二階氏、菅氏という政権中枢の実力者3人が“三すくみ”状態で決定権を持てないところが似ている」