島津斉彬(渡辺謙)の死という大事件を機に、さらなる盛り上がりを見せる『西郷どん』。思えばNHK大河ドラマは、いつの時代も国民の話題の中心であり、数々の名作を生み出してきた。その中でも「ベスト」はどの作品か──。『西郷どん』の時代考証を務める歴史学者・磯田道史氏と、映画史・時代劇研究家の春日太一氏、そして歴代最高視聴率を記録した『独眼竜政宗』(1987年)の脚本家・ジェームス三木氏が熱い議論を闘わせた。
磯田:『西郷どん』のスタッフたちとの初顔合わせで、私は大演説したんです。「『独眼竜政宗』が大河史上の最高傑作であることは間違いない。我々はそれを超えるものを作ろうじゃないか」と。
三木:それは嬉しい。脚本家としてこれ以上の栄誉はありませんね。『西郷どん』には薩摩藩主・島津斉彬として渡辺謙くんが出演していることも『独眼竜』を思い出させます。
磯田:『独眼竜』では大御所の勝新太郎さんが豊臣秀吉を演じて、若き渡辺さんが演じる伊達政宗とぶつかり合った。そして『西郷どん』では、鈴木亮平さんが演じる西郷の前に、渡辺さんが大きな存在として現われるわけです。そのあたりにも『独眼竜』への強い意識を感じます。
春日:『独眼竜』放送当時、私はまだ10歳、小学4年生でしたが、大河にハマるきっかけになった作品です。大人になって観返すと、「コンプレックスを抱えた少年がそれをどう乗り越えていくか」が丹念に描かれていることに気付きます。疱瘡を患って右目を失明してしまう梵天丸(政宗の幼名)は、自分の容姿に劣等感を持っている。そんなところに、自分と同じような眼をした不動明王の像に出会う。そこで虎哉禅師(大滝秀治)が「不動明王は優しい仏様じゃ。外見と異なり慈悲深い」と説く。そこであの名台詞が出てきます。
三木:「梵天丸もかくありたい」──あれは流行語にもなりました。小学生の間であの言葉が飛び交っていると聞いたときは嬉しかったね。