「花と緑あふれる町」福島県双葉郡富岡町の、町の木は桜、町の花はツツジだ。町の北に位置する「夜ノ森駅(よのもりえき)」は、ホーム両側いっぱいに咲くツツジで知られている。ところが、2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故によって、半世紀以上前から町民によって育まれてきたツツジの運命は変えられてしまった。夜ノ森駅を含む常磐線復旧のスケジュールが次々と発表されるなか、富岡町のシンボルとその行方について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
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2011年の東日本大震災の発生から7年が経過し、各地では復興が続けられている。その成果もあって、多くの被災地では普段の生活を取り戻しつつある。
しかし、常磐線の沿線はいまだに街の活気が戻ってきていない。東京の日暮里駅―宮城県の岩沼駅(運行系統上は、品川駅―仙台駅間)を結ぶ常磐線は、東日本大震災の地震や津波、そしてその後に起きた福島第一原発事故によって大きな影響を受けた。特に福島県内の被害は甚大だった。
駅舎や線路が流出・崩壊して運行に支障をきたしたため、常磐線は福島県いわき駅より北側を運休した。
歳月とともに、常磐線は復旧区間を拡大。現在は富岡駅-浪江駅間のみが運休している。現状の常磐線の線路は南北に分断されている。実質的に、常磐北線と常磐南線といった具合だ。
常磐線は2020年までに全線を再開するメドが立ち、沿線の街にも少しずつ人が戻ってきている。“常磐北線”の小高駅前には、このほど芥川賞作家の柳美里さん書店を開店させた。町の復興が加速するとの期待が高まり、大きな話題を呼んでいる。
このように常磐線と沿線の街の復興は、着実に進んでいる。南北に分断されていた常磐線がひとつにつながる日も近い。残った立ち入り禁止区域では、急ピッチで除染作業が進む。
福島県富岡町内に位置する夜ノ森駅は、いまだ立ち入り禁止区域に指定されている。夜ノ森駅は線路が掘割に敷設されている構造になっており、駅舎は線路の東側にしかない。駅舎のある東側は立ち入り禁止区域のままだが、線路の西側は一足早く避難指示が解除された。そのため、駅前に足を踏み入れることはできないが、線路の西側から駅舎を眺めることは可能だ。
東日本大震災以降、私は被災地に足しげく通った。2013年5月に夜ノ森駅を見るために立ち寄ろうとすると、駅に通じる道は閉鎖されていて近づくことは叶わなかった。
このとき、夜ノ森駅を裏手から覗くと、まだ除染作業が始まっていなかったので鬱蒼とした緑と最盛期を過ぎたツツジに包まれていた。
夜ノ森駅のホームや周辺は、ツツジが植栽されていることでも知られている。2002年にはツツジが咲き誇る景色が素晴らしいとの理由で、東北の駅百選にも選出された。ツツジが咲く光景は東日本大震災後も変わらなかったが、ホームに植えられた約6000株のツツジは除染作業で伐採された。
富岡町役場の担当者は、こう話す。
「夜ノ森駅のホームに植えられているツツジは、遠方から見物客が訪れるほど人気があります。しかし、除染作業でツツジは伐採されることになりました。町では再植樹の計画を立てていますが、JR東日本とも話し合う必要があるので、まだ具体的な内容は詰めていません」