親の介護が始まるとき、多くの人が迷い悩むのが、介護をする「場所」だろう。同居をして在宅介護か、親の自宅に通う在宅介護か、介護保険サービスなどを利用して別居で在宅介護か、あるいは施設を探すか。
物理的・経済的な条件ももちろんあるが、親はどうしたいのか、子供は自分の生活と親孝行との折り合いをどうつけるのか。そう簡単に割り切れないことも多い。長年介護現場を取材し、介護家族の思いに耳を傾けてきた介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに聞いた。
「介護といえば、多くの人が持つイメージは、車いすを押し、“入浴・排泄・食事の介助”をする姿でしょう」と、太田さん。確かにそうだ。50代の私は深くうなずいた。
「まず今の70~80代の親たち自身が、そんなイメージを強く持っています。そしてその親に育てられた今の40~50代の子世代は、時代背景が変わっても“老いた親は子供が一緒に住んで面倒を見るもの”と刷り込まれているのです。実際に親が祖父母の身体介護をする場面を見た人なら、その価値観は揺るぎないものかもしれません」
調査によれば昭和30年頃、高齢者(65才以上)の親族(主に息子夫婦)との同居率は8割超え。老いた親はもともと子世代と同居していて、そのまま在宅介護になるのが自然の流れだったのだろう。
それが今は要介護者の約3割が独居…。世帯の姿も大きく変わったのだ。太田さんはこう語る。
「今は夫婦共働きや、親世帯と遠く離れて暮らしている人も多いですね。親、子それぞれ別の生活があるのです。でも入浴・排泄・食事介助といった介護をするとなれば、親のそばにずっといなければならず、現実的には難しい。だからこそ、訪問介護や通所介護など、多様なサービス、支援を利用しながら、子世代の生活と介護が両立できる仕組みができているのです。
ところが“入浴・排泄・食事介助こそが介護”という固定観念があると、他人に介護を任せることに罪悪感を持ったり、無理をしてでも在宅介護にこだわったり。親世代が施設や介護サービスの利用に抵抗感を露わにする場合もあるようです。現代の介護家族は、介護以前に、とても複雑な悩みを抱えているともいえます」
どうやら心情に流されないよう、冷静に考える必要がありそうだ。形態別のメリット、デメリットを聞いた。
「まず『同居で在宅介護』をする場合。何といっても生活を共にできるので、お互いの安心感が違います。余計な費用や時間がかからず、フレキシブルに対応できます。その半面、24時間態勢のため、子世代のテリトリーへの影響が大きく、ストレスは想像以上。とくに子世代が親の住まいに移る場合は、仕事に少なからぬ影響があります。