あるいは、1950年代に起きた世界最初のジェット旅客機「コメット」の連続墜落事故。こちらは面心立方という格子構造を持つアルミニウム合金の繰り返し荷重による「疲労破壊」が原因だった。これも当時は未知の現象であり、コメット墜落事故の原因調査で初めて判明したのである。
また、かつて私は日立製作所で原子炉設計に従事したが、その頃は安全規則に関する「72の法則」というものがあった。これは商業原子炉を作る前に起きた72通りの原子炉事故の原因をまとめたもので、原子炉設計者はそれらをすべて記憶して再発しないように万全を期すのだ。
しかし、それでも事故は起きてしまう。福島第一原発事故では、原子炉は地震に対してすべて想定通りにスクラム(緊急停止)したのに、大津波で非常用発電施設が水没して電源を喪失し、原子炉を冷却することができなくなった。技術者は想定されるすべての事故に備えて非常用発電施設を複数設置していたのに、“想定外”の大津波によって機能しなかったのである。
ただ、6号機では海抜13.2mの高所に置いてあった空冷式の非常用発電機が水没せず、その電源を5号機にも融通して2基の原子炉を冷温停止に持っていくことができた。この発電機は空冷のフィンが大きくて置き場所がなかったため、やむを得ず屋根の上に置いたもので、それが津波をかぶらずに生き残ったというのは、いわば“想定外の外”の僥倖だったのである。
つまり、技術者がどれほど自分の守備範囲内の完璧な技術で非の打ちどころがないものを作ったとしても、想定外の事故は起こりうる。そしてその事故の原因を分析して対策を講じることによって、技術はより安全で、より完璧なレベルに磨き上げられていくのである。だから、技術者にとって事故は技術の進歩と安全性向上のために必要なものなのだ。
※週刊ポスト2018年5月18日号