音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、古典落語『紺屋高尾』のバリエーションと、新しい演出についてお届けする。
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前回のこの欄で、『紺屋高尾』には圓生系と談志系の2系統があることを書いた。
『紺屋高尾』とほぼ同一のストーリーと言っていい『幾代餅』という落語がある。搗米屋の職人が幾代太夫に恋をする噺で、古今亭志ん生が演じ、倅の十代目金原亭馬生や古今亭志ん朝が継承した。
今、寄席の世界では『紺屋高尾』より『幾代餅』のほうが優勢だ。五街道雲助やその弟子の桃月庵白酒、志ん朝一門の古今亭志ん輔といった古今亭の演者のみならず、五代目小さん一門の柳家さん喬、柳家権太楼も『幾代餅』を演じている。
そんな中、柳家花緑や三遊亭遊雀は『紺屋高尾』を演じているが、これは立川談春の型を教わったもの、即ち談志系。談春の他にも志の輔・志らく・生志といった優秀な弟子たちが継承しているため、今や『紺屋高尾』は談志系のほうが圓生系よりポピュラーかもしれない。
圓生系の『紺屋高尾』は三遊亭鳳楽や三遊亭兼好といった圓楽党の演者に受け継がれている他、落語協会では(燕路・こみち師弟以外では)三遊亭圓窓とその弟子の萬窓という圓生直系の演者が印象的。落語芸術協会では三遊亭栄馬が得意とし、高尾の「久蔵さまは紺屋の職人。わちきは藍に染まりんした」という台詞をサゲとして用いている。