思わずひきこまれる印象的なシーン──たとえそれが主人公不在の、ストーリーの“本流”と異なる部分であったとしても──そこが作品のクオリティを象徴することは珍しくない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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NHK連続テレビ小説98作目『半分、青い。』もスタートして1か月半が過ぎました。ここでいったん「岐阜編」は区切りを迎え、いよいよ永野芽郁演じる主人公・鈴愛(すずめ)は漫画家を志して上京。「東京編」に突入、というタイミング。そもそも朝ドラに求められる基本5要素を振り返ってみると──。
1.「成長のドラマ」──人が成長し変化していく姿を描く
2.「共感性」──ストーリーの展開以上に、共感が基調
3.「登場人物の多様性」──家族一人ひとり年齢や性別、性格、仕事等にリアリティとバラエテイがあり、視聴者は誰かに感情移入できる仕掛け
4.「肯定性」──問題を抱えていたり、人として不十分な部分があっても、決定的な悪人や目を背けたくなる残酷な意地悪といった要素はない
5.「地域性」──土地の個性(今回は岐阜)が描かれ、日常の食や仕事風景といった生活の細部がリアルに見える
といった5要素についてここまでの『半分、青い。』は十分に満たしています。「朝ドラはこうあってほしい」と視聴者が思うツボを見事に押さえた出来映え、と言えるでしょう。
とにかく主演を務める永野芽郁の演技が上手い。高校を出たばかりの18歳だそうですが、脚本に描かれている一つひとつの場面の意味をしっかりと理解し把握していて、セリフを血肉化している。だから、前作のように主役の一挙手一投足に引っかかったり違和感を抱くことなく、視聴者は安心して見ていられる。スムーズに物語の世界へ入っていけます。
永野さんご本人が「自分の顔が好きではない」と公言しているように、誰もが美人と思う整った美形タイプではないのかも。いわば個性派、ファニーフェイスに分類されるかもしれませんが、むしろそれが強味になっていて、生活感や躍動感、現実感につながっています。ちょっと野暮ったくて大人になりきれない少女。「枠からはみ出す」感じを上手に演じ、それが「岐阜編」の基本テイストとなっていました。
今後鈴愛が大人になっていく過程で、その「はみ出し感」がどう変化していくのか、見物です。ありきたりな大人になり平板になってはつまらないけれど、子供のままでも進展がないわけで、そのあたり注目点でしょう。
実は「岐阜編」で、主人公以上に大きな共感を集めた要素がある。それは、「ありそうでなさそうな中年夫婦」の姿。鈴愛の父親・宇太郎を演じる滝藤賢一と母親・晴を演じる松雪泰子の夫婦です。